(承前)少し間が空いてしまいましたが、Society5.0は脱工業化社会(7)の続きです。社会には工業化社会、修正された工業化社会、真の脱工業化社会の3つのステージが存在します。その3つのステージをめぐり、あらゆる業界で「工業化社会に留まろうとする派」と「脱工業化社会を進めようとする派」の綱引きが発生しています。この論考の後半では、教育業界における「綱引きのプレイヤー」を挙げ、彼らの思惑について考察していきましょう。
教育業界のプレイヤー
今回はまず、教育業界におけるプレイヤーを整理したいと思います。上記の図をご覧ください。プレイヤーは「工業化社会の維持派」と「脱工業化社会の推進派」の2つに分かれます。
「工業化社会の維持派」のプレイヤーは、比較的簡単に見つけることができます。教育業界が変化することを嫌っている一派や、「東大を頂点とする学歴ピラミッドの中の椅子取りゲーム」における勝ち組です。誤解を恐れずに言うと、多くの公立学校や進学校がここに位置するでしょう。(慌てて補足すると、維持派でない公立学校や進学校はもちろん存在します。公立学校や進学校なら全て維持派というわけではありません。)
一方、「脱工業化社会の推進派」のプレイヤーは、維持派に比べて見つけにくくなっています。学習塾を含めた教育業界では、根強い「偏差値・学歴信仰」があるからです。学校における「新しい教育の取り組み」よりも、東大に何人入ったかがニュースになってしまうからです。「脱工業化社会の推進派」を探そうと思ったら、その学校が実践している教育内容から探していくしかありません。
脱工業化を進める私立学校
それでは、どんな学校が「脱工業化社会の推進派」足りうるのかと問われれば、私は私立学校だと答えます。もちろん全部の私立学校が推進派とは言えません。私立学校研究家の本間勇人先生の言葉を借りると、「<私学の系譜>を継いでいる私立学校」こそが「脱工業化社会の推進派」だと言えるでしょう。
2013年ごろまでは、<私学の系譜>と<官学の系譜>で考えていけばよかった。学歴社会の圧力に<私学の系譜>が屈するコトのないようにがんばる私学が、学歴社会加担からなんとか脱しようと21世紀型教育が生まれた。
ホンマノオト21「私立中高一貫校の4つのタイプ」より引用
「<私学の系譜>を継いでいる私立学校」は、推進派の中でも「真の脱工業化社会を目指す勢力」に属します。先日紹介した文化学園大学杉並中学・高等学校もそうです。「真の脱工業化社会を目指す学校」の情報は、今後もこのブログで発信していきたいと思います。(それまで待てないよ!という人は、本間先生のブログや21世紀型教育機構のイベントをご覧ください。)
通信制高校の出現
実は最近、私立学校とは別に「脱工業化社会の推進派」のプレイヤーが新しく現れました。N高等学校(以下、N高)を代表とする新しいタイプの通信制高校です。(インフィニティ国際学院やトライ式高等学院も、この新しいタイプの通信制高校です。)
2013年に設立されたN高は、学習指導要領にある「通信制高校の特例」を使い、個別最適化の教育を始めたのです。通信制高校の特例によってN高は「学習時間の制限」から解放されます。そうして出来た時間をつかって、N高はプログラミングやeスポーツ、音楽、小説、デザインなどの個別最適化された教育を展開しているのです。
再確認しておきたいのは、「通信制高校の特例」を利用した方法は、特例本来の意図された使い方ではないということです。「通信制高校の特例」は、「スクーリング(物理的に学校に通うこと)が困難な子供たち」のために作られた規則です。それを言わば悪用して、教育(と言う名のビジネス)を展開しているわけです。
<私学の系譜>の私立学校も、N高のような通信制高校も、個別最適化の教育を目指している点では同じです。ただし私立学校は、「学習指導要領による制限と裁量」を深く理解し、その範疇で個別最適化の教育を実践しています。両者は同じ「脱工業化社会の推進派」ですが、そのスタンスの違いは明らかです。それを踏まえた上で、次回は「各プレイヤーの思惑」について見ていきたいと思います。(続く)
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