Weekly 教育ニュース(2026年3月9日〜15日)

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3月9日、文科省は校務DXと働き方改革に関する複数の調査結果を一斉に公表しました。生成AI活用は急伸し、残業時間は全校種で改善——数字だけを見れば「前進」です。しかし同じ調査で、押印を必要とする学校は91%、FAXは72%が日常的に使用中。若手教員の6割は「定年まで働けない」と答えています。今週はこの「改善」と「停滞」が同居する教育現場の構造を読み解きつつ、高校生の生成AI利用率46%、特別支援教育の人事交流方針をお届けします。


目次

校務DX、進まない理由は「時間がない」——押印91%・FAX72%が映す現実

文部科学省が3月9日に公表した「校務DXチェックリスト」に基づく自己点検結果は、学校現場のデジタル化の現在地を教えてくれます。

2025年度末までの「原則廃止」が目標だった押印とFAXの状況は、目標との大きな乖離が明らかになりました。業務で押印が必要な書類が「ある」と答えた学校は91%。FAXを日常業務で使用している学校は71.7%にのぼります。FAXの相手先は民間事業者が72.5%で最も多く、次いで他校(40.6%)、教育委員会(36.4%)と続いています。学校単独で廃止しようとしても、取引先や行政側が対応していなければ動けないという構造的な問題がわかります。

一方、すでにデジタル化に取り組んだ学校では効果の実感が高く、押印廃止に取り組んだ学校の90.8%、FAX不使用の学校の64.8%が、教職員の働き方改善に「効果があった」と回答しています。やればよくなる。しかしやれない——この「わかっているけどできない」状態が長期化しています。

教育新聞の報道によれば、DXが進まない理由として「取り組む時間的余裕がない」が上位に挙がっています。これは後述する残業時間の「改善」と矛盾するように見えますが、現場の実感としては理解できます。残業時間が仮に減っても、それは本来やるべき業務を削った結果かもしれず、新たにDXに着手する余力までは生まれていないということです。

筆者が知っている学校現場でも押印文化が根強く残っています。ある大学法人の傘下にある学校では、基幹業務システムの導入は法人本部が主導する建て付けです。法人側は数年前からDXシステムの導入を掲げていますが、実際には導入が進んでいません。一方、学校現場が独自にシステムを入れることは権限上できない。押印の代替となるワークフローシステムがなければ、押印をやめようにもやめられない——「やる気はあるが、自分たちでは動かせない」という膠着状態が続いています。

松本洋平文科相が3月10日の会見で押印・FAX廃止の加速を表明しましたが、公立校に対する国の号令だけでなく、私立校を含めた学校設置者レベルでの決断が求められます。校務DXは、現場の教員の工夫だけでは限界があり、設置者・法人本部のトップダウンの後押しがなければ動かないテーマです。


教員の残業は全校種で改善——だが若手の61%は「定年まで持たない」

同じ3月9日、文科省は「学校の働き方改革のための取組状況調査(見える化調査)」の結果も公表しています。2024年度の教員の時間外在校等時間は、前年度比で全校種において改善しました。月平均「45時間以下」の割合は以下のとおりです。

2023年度2024年度改善幅
小学校75.4%77.8%+2.4pt
中学校57.6%60.5%+2.9pt
高校71.8%72.6%+0.8pt

改善傾向は確かですが、中学校では依然として4割近くが月45時間を超えています。2025年6月に成立した改正給特法では、教職調整額が給料月額の4%から段階的に10%へ引き上げられることになり、2026年1月に5%への最初の引き上げが実施されました。「状況は改善に向かっている」という政策的なメッセージとも読み取れますが、改善幅は1〜3ポイント台にとどまっています。

この数字には重要な留保もあります。まず「持ち帰り業務」の時間が含まれていません。自宅で教材研究や成績処理を行っている時間を加えれば、実態はこの数字より長い可能性があります。

さらに深刻なのは、教育新聞が報じた日本教職員組合の調査結果です。時間外勤務時間は2017年の月68.4時間から2025年の46.3時間へと減少しているにもかかわらず、「現在の働き方を定年まで続けることは可能だと思うか」という質問に対し、61.1%が「可能だと思わない」と回答しています。残業時間が減っても、「この仕事を続けられる」という見通しが立たない教員が過半数を超えているのです。

この乖離の背景には、時間の数字に表れない負担の存在があります。筆者が現場で聞く限り、特に若手教員にとって大きいのは部活動の負担です。「見える化」調査の「時間外在校等時間」には部活動指導も含まれていますが、土日の練習や大会引率の拘束感は、平日の残業時間とは質が異なります。

2026年度からは部活動改革の次期改革期間に入り、「地域移行」は「地域展開」と名称を改めて本格化しますが、移行のスピードは自治体によってまちまちです。筆者の知り合いの先生の学校では来年度から部活動が地域移行になったそうですが、2024年のスポーツ庁フォローアップ調査では、休日の部活動で地域連携・移行に取り組んでいる運動部はまだ21%にとどまっています。計画と実行の間にはまだ大きな距離があります。

保護者対応の複雑化、クマ・害獣対策など想定外の業務の増加も重なっています。文部科学省への要請書では「授業準備などの十分な時間確保を」と明記されており、「残業を減らす」のではなく「本来の業務に集中できる環境を作る」という本質的な議論への転換が求められています。


「生成AI使う」高校生46%——学校は追いつけているか

こども家庭庁が公表した2025年度「青少年インターネット利用環境実態調査」で、高校生の46%が生成AIを利用していることが明らかになりました。

大人より子どもの方が新しいテクノロジーに早く親しむのは自然なことです。スマートフォンもSNSもそうでした。生成AIも同じ構造で、高校生の半数近くがすでに日常的に使っている一方、教員側は意識して触れにいかなければ使わないまま過ぎていく。以前の記事「教員のAI利用率”半数超え”を読み解く」で整理したとおり、教員個人の生成AI利用率は2025年時点で28〜37%程度(仙台大学・アルサーガ調査)と推定されます。母集団の定義が異なるため単純比較はできませんが、「学校が使い方を教える前に、生徒はもう使っている」のが現実です。教員が意識的にAIに触れ、自ら使いこなす経験を持たなければ、生徒の利用実態に対して適切な指導はできません。

こうした現実を踏まえると、次期学習指導要領で小学校段階からAI・情報リテラシー教育が強化される方向は必然と言えます。具体的には、小学校の「総合的な学習の時間」に「情報の領域(仮称)」を新設し、中学校では「技術・家庭科」を分離して技術を独立教科とし、全ての領域に情報教育を盛り込む方向で検討が進んでいます。情報活用能力を「探究的な学びを支える基盤」と位置づけ、小学校から高校まで体系的に育成するカリキュラムの構築が目指されています。生徒がすでにAIを日常的に使っている現実を前提に、「禁止」ではなく「適切な使い方を育てる」教育への転換が急がれます。


特別支援学校と小中高の人事交流を仕組み化——作業部会が方向性案

中教審の教員養成部会の下に設置された特別支援教育作業部会が3月13日に開かれ、特別支援学校教員の専門性向上に向けた方向性案が示されました。

核心は、特別支援学校の教員が採用後10年以内に小・中・高校での勤務を経験する仕組みの構築です。この構想では、特別支援学校の教員が通常校で教科指導力や学級経営力を磨くと同時に、通常校側にも特別支援教育の知見が還流することを狙っています。

今後、この方向性案は教職課程・免許・大学院課程ワーキンググループに引き継がれ、具体的な制度設計が進められます。教員の人事異動は都道府県・政令市の教育委員会の権限であり、国の方針がどこまで現場の人事配置に反映されるかが今後の焦点です。


【情報源】

  • 文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト」自己点検結果(3/9公表)
  • 文部科学省「令和7年度 学校の働き方改革のための取組状況調査」(3/9公表)
  • 松本洋平文部科学大臣記者会見(3/10)
  • こども家庭庁「2025年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」
  • 教育新聞「生成AIを校務で積極活用17.2% DX進まない理由は『時間がない』」(3/9)
  • 教育新聞「なぜ若手教職員が『定年まで働けない』 カギは『業務3分類の徹底』」(3/12)
  • 教育新聞「特別支援学校と小中高の人事交流を仕組み化 作業部会で方向性案」(3/13)
  • 日本教育新聞「特別支援学校の教員、採用10年以内に小中高校での勤務経験を」(3/13)

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著者

AI教育コンサルタント / 株式会社FlipSilverlining 代表取締役 / 守谷市生成AI活用推進プロジェクトアドバイザー
自治体のAI教育アドバイザーや私立中高の教育コンサルとして学校現場に入りながら、AI時代の教育について書いています。著書3冊(明治図書)、教員研修・講演120回以上、授業視察1,000回以上。

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