生成AIに関するガイドラインを策定する自治体が増えています。文部科学省が令和6年12月にガイドラインをVer.2.0に改訂したことを受け、各教育委員会でも独自の方針を整備する動きが加速しています。
しかし現場を見ていると、あるパターンが繰り返されているように感じます。丁寧に作られたガイドラインが、文章量が多くて読まれないまま職員室の棚に置かれてしまう、というものです。
「文書としての完成度」と「現場への浸透」は、まったく別の問題です。
守谷市生成AIガイドラインVer.2.0の公開
守谷市教育委員会は、市公式サイトで令和8年3月13日付で「守谷市立小中学校における生成AIの利用に関するガイドライン(Ver.2.0)」を掲載・案内しました。なお、ガイドライン本文の日付は令和8年2月27日です。
筆者は、守谷市「生成AI活用推進プロジェクト」アドバイザーとして、本ガイドラインの監修に携わりました。
Ver.2.0の改訂には、文科省のガイドライン改訂への対応に加え、守谷市の教育現場における実態や、実装レベルで機能するための整備が含まれています。
Ver.2.0が示す設計思想
守谷市のガイドラインが明確にしているのは、「危ないから使わせない」ではなく「安全な環境で生成AIに触れ、自律した学習者として活用できる力を育てる」という基本姿勢です。
この姿勢を裏付けるのが、段階的なロードマップです。令和7年度は教職員への浸透と生成AIの特性理解を優先し、令和8年度以降から児童生徒の本格的な活用へと進む設計になっています。「1人1台端末」から「1人1AI」の時代を見据えた長期的な視点が、ガイドラインの根底にあります。
こうした思想は、条文の随所から読み取ることができます。生成物の著作物性についても、加筆・修正だけでなく、プロンプトの内容・試行回数・選択といった要素を総合判断するという整理が明記されています。現場の先生が実際の場面で迷ったとき、立ち返れる記述になっています。
ガイドラインは誰に届けるべきか
Ver.2.0の構成を見ると、第5章が「教職員が校務で利活用する場面」、第6章が「児童生徒が学習活動で利活用する場面」、第7章が「運用体制・研修」と、対象別に章立てされています。教職員と児童生徒を主対象として章立てしつつ、保護者の理解・同意や説明も重要事項として位置づけています。
つまりガイドライン自体が、届けるべき相手として「教員」「児童生徒」「保護者」の三者を明確に想定して書かれています。
ここに、浸透設計の鍵があります。ガイドライン本編は、それぞれの対象に「どう届けるか」を考えるための起点です。教員に必要な届け方、児童生徒に必要な届け方、保護者に必要な届け方は、それぞれ異なります。同じ文書を全員に配布するだけでは、誰にも届かないことがあります。
今回の第一歩——教員への入り口
守谷市では、ガイドライン公開と同時に、二つの取り組みを実施しています。
一つは、クイックガイド(啓発リーフレット)の配布です。市公式HPにも掲載されているこの資料は、ガイドラインの要点をコンパクトにまとめたものです。教員が「迷ったとき」に立ち返れる入り口として機能します。分厚い文書とセットでコンパクトな参照資料を用意することは、浸透設計の基本です。
もう一つは、ガイドラインの内容をもとにしたチャットボットの整備です。NotebookLMにガイドラインを学習させることで、教職員がガイドラインの内容について自然な言葉で質問できる環境が作られています。「文書を読む」から「文書に聞く」への転換であり、著作権の解釈など迷いが生じやすい場面で、即座に確認できる仕組みです。
どちらも、三層展開の「教員向け」の第一歩に位置づけられます。
次の展開——児童生徒と保護者へ
教員向けの入り口が整ったとして、次に問われるのは児童生徒への届け方です。授業の中でどう説明するか、生成AIとの付き合い方をどう教えるか。ガイドラインの第6章はその指針を示していますが、具体的な教材や授業設計はこれからの取り組みになります。
保護者への説明も同様です。「学校が生成AIを使わせている」という情報だけが先行すると、不安が広がりかねません。守谷市の基本姿勢や、どのような安全措置を講じているかを、保護者に分かりやすく届ける手立てが求められます。
他の自治体でも、同じ課題は共通しています。ガイドライン策定の議論が「何を書くか」に集中しがちな中、「誰に・どう届けるか」の設計までをガイドライン策定と同列に考えることが、これからは求められるのではないでしょうか。
守谷市の取り組みは、その問いに向けた一つの実践として注目されます。
