今週の教育ニュースは、「教育の質をどう測るか」がテーマです。文科省は大学の学部ごとに「星評価」で格付けする新認証制度案を中教審に提示。高校授業料無償化法案は衆院を通過し、4月施行に向けた最終段階に入りました。一方、次期学習指導要領に向けた理数科WGでは「理数探究基礎」の必履修化が提案されましたが、現状の履修率はわずか1.8%。無償化で「誰もが高校に行ける」時代に、その先で何を学ぶのかという問いが、各所で同時に浮上しています。
大学の学部を「星」で格付け、「適合/不適合」の2択から4段階評価へ
文部科学省は3月17日、大学の教育の質を学部ごとに4段階で評価する新制度案を中教審の作業部会に提示しました。法令上の水準を満たさない学部を「要改善」、満たしている学部を1〜3つ星で格付けする仕組みで、2030年にも導入を目指すとしています。
まず、現行の認証評価制度を整理しておきます。2004年度に始まったこの制度では、すべての大学が7年以内に1回、文科大臣の認証を受けた第三者評価機関の審査を受けることが義務付けられています。評価機関は大学基準協会、大学改革支援・学位授与機構(NIAD)など5つあり、大学側が自由に選べます。評価の単位は「大学全体」で、結果は「適合」か「不適合」の2択です。
この仕組みには構造的な問題がありました。第一に、評価が大学全体を対象とするため、優れた教育を行っている学部も課題を抱えた学部も、同じ大学の「適合」に括られてしまいます。第二に、「適合」の中に質のグラデーションがありません。教育成果を上げている大学も、最低限の基準をクリアしただけの大学も、外から見れば同じ「適合」です。第三に、評価機関が5つあり、それぞれ基準が異なるため、結果を大学間で比較することが困難でした。評価結果も長大な報告書形式で公表されるため、高校生や保護者、企業にとって「どの大学のどの学部の教育が充実しているのか」を読み取ることは事実上不可能でした。
新制度案は、この3つの問題に同時に手を入れようとしています。評価単位を学部に変え、判定を4段階にし、結果をわかりやすく公表する。松本洋平文部科学大臣も同日の会見でこの制度に言及しています。
ただし、「星の数」で大学の価値が単純化されることへの懸念もすでに出ています。新制度では、入学者の偏差値ではなく「入学後にどれだけ力を伸ばせたか」を重視する方針です。理念は正しいものの、それを数段階の星に落とし込む過程でどうしても捨象されるものがあります。
高校教育改革のグランドデザインが2月に公表され、高校の「出口」の改革が議論されている中で、大学の「入口」側の質保証も同時に動き始めたことは押さえておく必要があります。新制度が「選ばれる大学づくり」を促すのか、「星取り競争」に矮小化されるのかは、評価指標の設計次第でしょう。全大学の評価結果が出揃うのは2035年頃の見通しで、息の長い議論になります。
高校授業料無償化法案が衆院通過、4月から「全世帯対象」の時代へ
高校授業料の実質無償化に向けた就学支援金法の改正案が、3月13日に衆議院本会議で賛成多数により可決され、参議院に送られました。年度内の成立を経て、2026年4月からの施行を目指しています。
改正の核心は、私立高校を含めた所得制限の完全撤廃です。これまでは世帯年収約590万円未満の家庭に限られていた私立高校への加算支給が、4月からは全世帯に拡大されます。支給上限額も現行の年39万6,000円から、私立高校の全国平均授業料に相当する年45万7,200円に引き上げられます。文科省の試算では、新たに支援が拡充される高校生は約80万人に上る見込みです。
2010年に始まった就学支援金制度は、当初は公立高校の授業料無償化からスタートしました。2020年の制度改正で私立高校への支援が拡充され、東京都や大阪府は独自に所得制限を撤廃して先行してきました。今回の改正によって、ようやく全国レベルで公私を問わない無償化が実現することになります。
「理数探究基礎」の必履修化を提案、履修率わずか1.8%からの転換は可能か
次期学習指導要領に向けた中教審教育課程部会の算数・数学WGと理科WGは3月13日、2回目の合同会合を開き、高校の共通教科「理数科」の拡充について議論しました。STEAM教育の実践者からの報告を踏まえ、「理数探究基礎」を文理問わず必履修にすべきだという提案が委員から出されています。
現行の学習指導要領で新設された「理数探究基礎」と「理数探究」は、数学と理科を横断する探究的な学びを目指した科目ですが、ほとんど活用されていないのが実態です。3月6日の初回合同会合で示されたデータによれば、全日制普通科での開設割合はいずれも3%台、履修率は1〜2%にとどまります。制度はあるが、ほとんど使われていません。
13日の合同会合では、steAm代表の中島さち子委員が、探究学習における数学テーマの少なさを指摘し、アートや社会現象と絡めた数学的探究の可能性を提案しました。同時に、学校現場で探究学習を推進するには教員が探究やPBLを自ら体験する研修が不可欠だとも提言しています。
この提言には、教員研修に関わる立場として強く共感します。ただし、研修の前に必要なステップがあると感じています。教員自身が「なぜ探究が必要なのか」を実感として持っていなければ、どれだけ研修を用意しても形式的な受講に終わります。筆者が学校現場で見ている限り、探究的な授業に意欲的に取り組む学校とそうでない学校の差は大きく、この差は教員個人の資質よりも、学校全体の文化や管理職の方針に左右されている印象です。外部の仕組みも重要ですが、まずは教員に授業を見学したり同僚と学び合ったりする時間的な余裕を確保することが、探究教育の土壌を耕す最初の一歩ではないでしょうか。
時間の問題は、6日の初回合同会合でも焦点になっていました。東京大学の西成活裕委員は「探究には時間がたっぷり必要であり、いかに時間を作るかとセットで考えるべきだ」と述べた上で、「今は恐ろしいほどAIが賢くなり、中学生がフーリエ変換で問題を解いてくるが、突っ込むと答えられないこともあった。改めて問いの力が大事だと感じている」と問題提起しています。前号で取り上げた「高校生の46%が生成AIを利用」という調査データとも重なります。AIが「解く力」を代替する時代に、「問う力」をどう育てるかが探究教育の核心であり、理数科の拡充はその具体策の一つと言えるでしょう。
教職課程の性暴力防止授業、大学の14%が未実施——子どもを守る「多層防御」の現在地
松本洋平文科相は3月17日の会見で、教職課程を置く大学の約14%が、児童生徒への性暴力防止に関する授業を実施していないことについて「誠に遺憾」と述べました。
2022年4月に施行された「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」を受け、教職課程における性暴力防止教育の充実が求められてきました。しかし、法施行から4年が経過しても、約7校に1校が未対応という状況が明らかになったのです。
子どもを性暴力から守る施策は、教職課程での教育だけではありません。同法に基づき2023年4月から稼働している「特定免許状失効者等データベース」は、児童生徒への性暴力で教員免許が失効した人の情報を過去40年分にわたって記録し、教育委員会や学校法人が教員を採用する際にこのデータベースで照会することを義務付けています。処分歴を隠して他の自治体で採用されるケースを防ぐ仕組みです。
さらに2026年12月には、教員に限らず子どもと接するすべての職業を対象とした「日本版DBS(こども性暴力防止法)」の施行が予定されています。現行の教員向けデータベースは「教員免許の失効」という行政処分に基づく記録であるため、免許を持たない非常勤職員や、教員以外の塾講師・スポーツ指導者などは対象外でした。日本版DBSは性犯罪歴そのものを照会できる仕組みで、この「穴」を塞ぐことを目指しています。
教職課程での予防教育、採用時のデータベース照会、そしてより広い職種をカバーする日本版DBS。こうした多層的な防御の仕組みが整いつつありますが、いずれも制度が存在するだけでは機能しません。教職課程の14%が未実施であるように、運用する側の意識と体制が伴って初めて子どもの安全は守られます。
【情報源】
- 日本教育新聞「大学教育の質、学部ごとに星評価 文科省が新認証制度案」(3/18)
- NHK「高校授業料無償化 就学支援金法改正案 衆院本会議で可決」(3/13)
- 日本経済新聞「高校無償化の改正法案を閣議決定」(2/27)
- 教育新聞「STEAM教育をヒントに理数科を拡充 WGの合同会合で議論」(3/16)
- 教育新聞「算数・数学WGと理科WGが合同会合 高校『理数科』や探究が論点に」(3/9)
- リシード「大学の新たな評価制度、教職課程の性暴力防止授業…文科相3/17会見」(3/18)
- 文部科学省「高等学校等就学支援金制度」
- 文部科学省「認証評価制度」
- 文部科学省「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等について」
