Weekly 教育ニュース(2026年3月2日〜8日)

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今週は、4月施行を目指す2本の重要法案が国会で審議されています。高校無償化(就学支援金改正)と中学校35人学級の法制化です。どちらも現場への影響が大きく、年度内成立が焦点となっています。あわせて、校務での生成AI活用率を2027年度までに50%とする「学校教育情報化推進計画」の改定案、AI時代の英語教育の意義を問い直した外国語ワーキンググループ第9回の議論、外国につながる子どもたちの指導体制整備に向けた有識者会議の動向をお届けします。


目次

高校無償化、4月施行へ——改正法案が国会審議中

高等学校等就学支援金法の改正法案が2月27日に閣議決定され、国会で審議されています。現行制度では保護者の年収が約910万円を超えると支給対象外となっていましたが、改正案ではこの所得制限を撤廃します。支給上限額は年額45万7,200円に引き上げられ、公立との差額を実質的に補填する設計です。

対象拡大の規模は相当なものです。現在の年収590万〜910万円の層が約35万人、910万円超の層が約45万人で、新たに計約80万人が恩恵を受ける見込みとされています。政府は今年度内の法案成立、2026年4月からの施行を目指しています。

国会審議の過程では、外国人学校を支給対象から外すよう求める意見も出ており、論点のひとつとなっています。この点は、今号の後半で取り上げる「外国につながる子どもたちの指導体制整備」とも絡み合う問題です。

「誰のための無償化か」という問いは、今後も議論が続きそうです。現場の教育関係者としても、制度の細部が確定するまで注視していく必要があります。


中学校35人学級が法制化へ——義務標準法改正案も国会審議中

公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(義務標準法)の改正法案も、2月27日の閣議決定を経て国会で審議されています。こちらも4月施行が目標です。

改正の核心は、中学校の学級編制標準を現行の40人から35人に引き下げることです。小学校では2021年度から5年かけて段階的に35人学級が実現してきましたが、今回はその中学校版にあたります。2026年度は中学1年生から適用し、翌年度に中1・2年、2028年度には全学年へと拡大する計画です。教職員定数は約17,000人増員される見込みです。

ただし、文部科学省の調査によれば、2026年4月1日時点で公立中学校の15.9%(約6〜7校に1校)で既存の教室を転用するなどの対応が必要になるとされています。法制化と施設整備の足並みが揃わないまま4月を迎える学校が生じる可能性は、現実として受け止めておく必要があります。

教育現場を長年観察してきた立場から、もう一点気になるのは教室の問題です。特別支援学級の在籍者数はこの10年で約2倍に増加しており、視察先でも教室のやりくりが難しい学校を複数確認しています。定数の数字が整う前に、物理的な教室が足りなくなる現場が出てくる可能性があります。


校務での生成AI活用「50%」へ——情報化推進計画の改定案が示す現実

文部科学省のデジタル学習基盤特別委員会(第9回、2月24日)で、「学校教育情報化推進計画」の改定案が提示されました。2019年に制定された「学校教育の情報化の推進に関する法律」に基づく計画で、今回の改定では初めて生成AIの活用に関する数値目標が盛り込まれています。

注目すべき指標は、「生成AIを校務で活用する学校の割合」です。2024年度の値は2.7%。これを令和9年度(2027年度)までに50%にするという目標が掲げられました。数値目標が明示されたことは、政策として前進だと評価できます。

一方で、この目標の達成可能性を論じる前に、まず問われるべきは「達成の基準をどう定義するか」です。2.7%という現在値自体、「ほぼ全員または半数以上が活用」という条件付きの数字です。50%という目標値についても、何をもって「活用」とカウントするのか。解像度を上げた定義なしには、数字の達成が実態の向上を意味しません。目標値の設定と並行して、達成基準の精緻化が急がれます。

なお、この2.7%という数字の読み方については、以前の記事でイノベーター理論と照らし合わせながら整理しています。よろしければあわせてご参照ください。 →教員のAI利用率”半数超え”を読み解く——イノベーター理論から見る普及の現在地と課題


AI時代に英語を学ぶ意義——外国語WGが「コミュニケーション・レジリエンス」を提示

中央教育審議会の外国語ワーキンググループ(WG)第9回会合が2月20日に開催され、生成AIが英語教育に与える影響が本格的に議論されました。次期学習指導要領に向けた議論の中で、最も根本的な問いが立ち上がっています。「AIが自動翻訳・自動英作文を担う時代に、学校で英語を学ぶことにどんな意味があるのか」という問いです。

WGの議論では、生成AIを活用した英語教育を「コミュニケーション・レジリエンス」を育成するための手段として位置付けています。コミュニケーション・レジリエンスとは、異なる価値観・文化的背景を持つ人々と接したとき、相手の意図を批判的に読み取り、自分の考えを主体的に伝え、摩擦を乗り越えていく力のことです。AIとの対話練習で発話量が増え、心理的安全性が高まるという実践的な効果も報告されており、「AIと競合する英語教育」ではなく「AIを使って深める英語教育」へのシフトが議論の基調となっています。

この方向性には賛成です。ただし現状を見ると、AIを活用した英語学習の恩恵はイノベーターやアーリーアダプター層の教員に集中しており、アーリーマジョリティ・レイトマジョリティ層にはまだ届いていません。「コミュニケーション・レジリエンスをAIで育てる」という理念を、普及曲線の中間・後半層まで届けるためのツールや授業設計の開発が、次の課題です。そこへのアクセスの差が、実質的な学校格差につながっていきます。


外国につながる子どもたちの指導体制整備——「日本語指導補助者」の職員化へ

文部科学省の有識者会議「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に施策の充実に向けた検討会議」(第11回)で、日本語指導補助者や母語支援員を学校の職員として正式に位置付けることを盛り込んだ報告書骨子案が提示されました。

現行制度では、日本語指導補助者や母語支援員は「外部人材」として扱われており、学校との契約形態は自治体によってまちまちです。骨子案では、これらの人材を学校職員として明確に位置付けることで、身分を安定させ、学校組織への統合を促すことが提案されています。

今週は、高校無償化の議論で「外国人学校は支給対象外」という方向性が示される一方で、この施策では外国につながる子どもたちの教育環境整備が前進しようとしています。「制度から外れた子ども」と「制度の中で支援を受ける子ども」という分断が生じないよう、政策の整合性を見ていく必要があります。

在籍校に外国につながる子どもがいる教員にとって、日本語指導補助者との連携はすでに日常的な課題です。「職員化」によって何が変わり、何が変わらないのか——現場での実感と制度設計の両面から、引き続き注目していきたいテーマです。


【情報源】

  • 高校無償化改正法案・義務標準法改正法案(2/27閣議決定)
  • 学校教育情報化推進計画改定案(文科省デジタル学習基盤特別委員会第9回、2/24)
  • 外国語ワーキンググループ第9回(2/20)
  • 外国人の子供の就学促進等に向けた検討会議第11回

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著者

AI教育コンサルタント / 株式会社FlipSilverlining 代表取締役 / 守谷市生成AI活用推進プロジェクトアドバイザー
自治体のAI教育アドバイザーや私立中高の教育コンサルとして学校現場に入りながら、AI時代の教育について書いています。著書3冊(明治図書)、教員研修・講演120回以上、授業視察1,000回以上。

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