2026年9月29日(米国時間)、ChatGPTに新しい機能「dots」が登場しました。一言で言えば、秘書のように先回りして動くAIです。
これまでのAIは、こちらからお願いして初めて動いてくれるものでした。ところがdotsは、頼んでいないのに向こうから声をかけてきます。AI秘書機能の登場により、何が変わったのか。そして、このAIが学校に入ってきたら、生徒の学びはどう変わるのか。ポッドキャスト「先生のためのAIラジオ」第29回では、登場直後からAI秘書を使い込んだ実感をもとに、この2つの問いを掘り下げました。
頼んでいないのに、AIのほうから声がかかる

私は、ChatGPTのAI秘書機能であるdotsに、「ドットくん」と名前をつけています。使い始めてすぐに驚かされる出来事がありました。メールで打ち合わせの日程を調整していたときのことです。先方は「4時半以降で」と書いてくださっていたのに、私はそれを見落として、「4時から」と送ってしまいました。すると送った直後、ドットくんから「今送ったメール、4時からと送っていますが、先方は4時半からと言っています。大丈夫ですか」とチャットが届いたのです。
別の日の朝には、ドットくんからこんなチャットが届きました。「明日、研修の予定がメールで入っていたはずですが、カレンダーには入っていません。大丈夫ですか」。実はこの予定は、先方から電話で日程を変えていただいたもので、私がすっかり忘れていたのです。この後、ドットくんがどんなことをしてくれたかは、番組でお話しします。
dotsの仕組みを簡単に説明すると、クラウド上に秘書専用のコンピュータとブラウザが用意されていて、そこで調べものや作業を進めます。許可すれば、第25回でお話ししたAstraの技術で、私たちのパソコンも操作してくれます。(なお、2026年10月時点では、dotsはProプラン以上の利用者(18歳以上)に限られ、Plusプランでは使えません。)
ドットくんが先回りできるのは、私のメールや予定、仕事の中身を知っているからです。個人の情報を知っていて、その人に最適化されたAI。これをパーソナルAIと呼びます。拙著『教師と保護者のための子どもの学び×AI入門(2024年6月)』で予想した一人一台のパーソナルAIの時代が、思っていたより早くやってきました。
秘書の次は、先生と生徒をつなぐAIチューター

dotsを使ってみて最初に思ったのは、これは学校教育と相性がいい、ということでした。学校に入るときは、秘書というよりAIチューターの形になる。そう予想しています。
次のような場面を想像してみてください。先生がGoogle Classroomで課題を出し、締め切りは金曜日。生徒のAくんは出すのをすっかり忘れています。水曜日の夜、Aくんの学習端末にAIチューターから声がかかります。「明後日が締め切りの課題、まだ出されていません。そろそろ取り組んでみてはどうですか」。課題を開いて手が止まったAくんには、AIチューターが火曜日の授業で先生が説明した箇所と、授業で使った例文を示してくれます。
「そろそろ取り組んでみては」という声かけは、今は先生や保護者がしています。けれども、先生一人では生徒全員に手が回りません。その手が回らないところを、AIがフォローするのです。もちろんAIチューターが入れば先生の仕事も楽になりますが、それは今のAI校務活用の延長線上でしかありません。もっともインパクトがある点は、先生と生徒の橋渡し役としてAIが入ってくることです。
AIチューターがAくんに声をかけることができたのは、課題の状況を知っているからです。どこまでのデータをAIと共有するかで、できることが変わります。たくさんのデータを共有すれば、それだけ手厚いサポートが可能になります。ただ、いきなり全ての教育データを渡すのは抵抗があるでしょう。だからまずは、Google Classroomのように授業やクラスの単位でAIチューターが入る形になると予想しています。そのとき必要になるデータは4つ。先生の授業資料、授業の音声、課題の問題と解説、生徒の提出物です。あきお先生に、この4つのうちどこまでならAIに渡せるかを聞きました。あきお先生の答えは、番組で確かめてください。
次のAI格差と、学校が今からできる2つの準備

AI格差は、これまで「AIを使う人と使わない人」の差でした。最近は、使う人の中でも、有料版か無料版かで差が出始めています。そしてこれからは、AIにどこまでデータを渡せるかで、差がさらに広がっていくと感じています。学校には、保護者とのメールから授業の音声、成績や所見、面談の記録まで、さまざまなデータがあります。渡すほどメリットは大きくなる一方で、万が一漏れたときのリスクも大きくなります。メリットとリスクは背中合わせなのです。
それでも、AIチューターは遅かれ早かれ学校に入ってくるでしょう。時間はかかっても、保護者や先生方の理解は得られていくと思います。そのとき差が出るのは、学校がどこまで準備できているかです。今からできる準備は2つあります。
1つ目は、学校のDXを進めることです。ドットくんが電話でのやり取りを知らなかったように、AIはデータになっている情報しか扱えません。DXというと学校全体の話に聞こえますが、自分の授業のデジタル化なら先生一人でもできます。必要なのは、授業を録音することだけ。文字起こしをすれば、Gemini Notebook(旧NotebookLM)に入れて生徒に配れますし、授業の改善や資料づくりにも使えます。紙だけで渡している教材をPDFにして、生徒がいつでも見直せるようにするのも大切だと、あきお先生は話していました。

2つ目は、AIにどこまでのデータを渡していいか、その議論を学校で始めることです。今すぐ成績データを全部渡しましょう、という話ではありません。メリットとリスクを把握したうえで、議論できる土壌を整えておきましょう。第10回でお話ししたとおり、この判断は学校長や教育委員会が責任を持って進められます。管理職の方は、ぜひ検討してみてください。

パーソナルAIの時代が、これから始まります。学校にはAIチューターが入っていき、どこまでのデータをAIに渡せるかで、学校間に差が出てきます。だからこそ、この方向性を知っておく。そして今のうちに学校のDXを進め、AIが扱うデータについて議論を始める。こうした準備が大切になるのです。
番組を聴く
番組では、ドットくんに任せている仕事の中身と、あきお先生が専属のAI秘書に頼みたいことを話しています。ご自身の仕事のどこから任せられるか、思い描きながら聴いてみてください。そして、授業の音声から生徒の提出物まで、4つのデータのどこまでなら渡せるか。あきお先生が教員として、そして保護者として答えています。どれなら渡せて、どれはためらうのか。その理由は、自分の学校で議論を始めるときの論点になるはずです。
「先生のためのAIラジオ」#29 は、こちらからお聴きいただけます。通勤時間や朝の準備のお供にどうぞ。
AI格差の話は、#26 日本と世界のAI活用の差、先生に何ができるかで。dotsを動かしているAstraについては、#25 ChatGPTの新モデル Astra 使ってみた、AIがパソコンを操作する時代へで紹介しています。
