「フェイクニュースに騙されないためには、どうすればいいんですか。」
保護者向けの講演会でも、先生方の研修会でも、よく受ける質問です。「気をつけてね」「ちゃんと調べてね」と声をかけてはいるものの、それで足りるのか心もとない。質問の奥には、そんな思いがあるのではないでしょうか。
見抜く力は、生まれつきの勘ではありません。訓練で伸びる力です。何を教えれば効くのかも、研究から具体的に分かってきました。ポッドキャスト「先生のためのAIラジオ」第21回では、この問いを入り口に、その鍛え方を掘り下げました。
「鍛えられるのか」に、世界中の研究が答えた

フェイクニュースを見抜く力は、教えたら伸びるのか。この問いをめぐって、各国で実験が重ねられてきました。本物の記事と偽物の記事を混ぜて見せ、見分けられるかを確かめる。そうした実験を49本集めて分析した研究があります。参加者は合わせて8万人。結論から言うと、教えれば伸びます。
面白いのは、測っているものが3つに分かれている点です。偽情報を信じなくなるか。本物と偽物を見分けられるか。そして、人に広めなくなるか。
ポイントは、1つ目と2つ目の違いにあります。信じなくなるだけでは不十分です。疑うことを覚えた結果、本物の情報まで信じられなくなっては意味がありません。だからこそ「本物と偽物を見分けられるか」が、大事な物差しになります。そして訓練によって、見分ける力も、広めない行動も、確かに伸びていました。
「鍛え方なんてあるんですか」と感じる先生や保護者は少なくありません。けれど、鍛えれば伸びる。それがこの研究の答えです。対象の多くは大学生や大人ですが、伸ばせる力だと知っておくだけで、教える側の心構えは変わります。
騙される前に、手口を知っておく

それでは、何を教えればいいのでしょうか。1つ目は、偽情報の手口をあらかじめ知っておくことです。
偽情報には、よく使われる手口があります。なりすまし、感情に訴える、分断をあおる、陰謀論、信用を失墜させる、挑発する。この6つです。先に知っておけば、実際に出会ったときに「あのパターンだ」と気づけるようになります。
考え方は、予防接種に近いものです。安全な場で、弱い偽物に先に触れておく。そうやって、いざというときの抵抗力をつけるのです。
さらに一歩進めて、生徒自身が「騙す側」に回ってみる方法もあります。自分で手口を使ってみると、仕組みが実感として分かりますし、授業も盛り上がるでしょう。
あきお先生の学校では、これに近い授業がすでに行われているそうです。中学生が世の中に出回っているグラフを探してきて、「こう見せたい」という作り手の意図を見抜き、正しいグラフに直して発表します。手口を知り、見抜く。まさに予防接種型の実践と言えるでしょう。
プロのファクトチェッカーは、横に読む

2つ目は、ファクトチェックの具体的な手法についてです。ラテラルリーディングと呼ばれる方法で、日本語では「横読み」と訳されています。
怪しいサイトに出会うと、つい、そのページの中だけで判断したくなります。しかし、プロのファクトチェッカーはそうしません。そのページをいったん離れ、新しいタブを「横に」開いて調べるのです。
見るのは3つ。発信者は誰か。証拠は何か。他の情報源は何と言っているか。1つのサイトを読み込むのではなく、別のタブで並行して確かめていく。だから、横読みなのです。
専門家が使う方法ですが、やること自体はシンプルです。国内でも、日本ファクトチェックセンターが「横読み」として検証のコツを紹介しています。学校でも家庭でも、十分に教えられます。
「調べなさい」が逆効果になるとき

ただ、1つ気をつけたいことがあります。ファクトチェックを子どもに教える際は、「ネットで調べてごらん」と言えば済む。そう思いがちですが、ここに落とし穴があるのです。
2024年に科学誌Natureに掲載された、米国の大人を対象にした研究があります。怪しい記事を見せて「ネットで調べて確かめてください」と促したところ、調べたグループのほうが、その記事を本当だと思う人が増えてしまいました。調べさせたのに、逆転が起きたのです。
研究者が原因の一つとして挙げているのが、検索結果の質です。フェイクニュースは、同じような情報源から量産されていることが多いのです。記事の見出しをそのままコピーして検索すると、同じ見出しの記事がずらりと並びます。それを見て「こんなにたくさんあるなら本当だろう」と思ってしまう。見出しの言葉で検索した時点で、フェイクの側に絞り込んでいるわけです。
つまり、教えたいのは「調べなさい」ではなく、検索窓に何を入れるかです。番組では4つのコツを紹介していますが、ここでは2つだけ挙げておきます。1つは、見出しの言い回しを捨てて、固有名詞と数字だけを取り出すこと。もう1つは、「ファクトチェック」「誤り」といった、打ち消す側の言葉を一緒に入れること。どちらも、記事の言葉をそのまま持ち込まないための工夫です。
番組を聴く
フェイクニュースを見抜く力は、訓練で伸びます。ただ、「調べなさい」と言うだけでは、十分な訓練にはなりません。記事の見出しをそのまま検索するだけで終わらせない。発信元を別の情報源から確かめる。そこまで教えて、はじめて訓練になるのです。
こうしたスキルへの注目は、世界的にも高まっています。OECDの学力調査PISAは、2029年の調査で「メディア・AIリテラシー」を新しい分野として測ると発表しました。メディアリテラシーとAIリテラシーを別々に扱うのではなく、一つの力として捉える枠組みです。フェイクニュースを見抜く力やファクトチェックの力も、そこに含まれていくでしょう。
記事でお伝えしたのは、鍛え方の骨組みです。番組では、あきお先生の学校で実際に使っている題材や、生徒のほうから「こんな嘘の情報、出てますよ」と教えてくれるという現場の話を交えながら、この力を授業でどう形にするかを話しています。
「先生のためのAIラジオ」#21 はこちらからお聴きいただけます。
