教員のAI利用率”半数超え”を読み解く——イノベーター理論から見る普及の現在地と課題

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2026年3月、MM総研が公立小中高の教育委員会を対象に行った調査で、「教員が校務で生成AIを利用している」と回答した割合が全体で56%、公立高校では91%に達したと報告されました(MM総研「公立小中高における教員向け生成AI利用環境調査」2025年11〜12月)。

「ついに半数を超えた」——そう感じた方も多いと思います。私も講演や研修の依頼が2025年度から明らかに増えており、教育委員会・学校レベルで生成AIの活用を本格的に進める意志を強く感じています。

ただし、この数字が示しているのは「教員個人の利用実態」とは少し違う話です。数字の主語を整理し、イノベーター理論に照らし合わせると、現在の普及段階と、今取り組むべき課題が見えてきます。


目次

まず「誰が答えたか」を整理する

同じ「教員のAI利用率」でも、誰が・何を・いつ答えたかによって数字は大きく変わります。主要な調査を時系列で整理すると、次のようになります。

調査時期調査・出典回答の主語・サンプル数値
2024年3月OECD「国際教員指導環境調査(TALIS)」教員本人・小中(n=6,944)16〜17%
2024年3月仙台大学AI教育研究チーム「生成AIの教育利用状況と意識に関する全国調査」教員本人・中学(n=533)・高校(n=730)中学17.4%・高校16.3%
2025年3月同上(2024-2025比較調査)教員本人・中学(n=481)・高校(n=673)中学29.3%・高校28.5%
2025年7月アルサーガパートナーズ「教育現場における生成AI活用実態調査」教職員本人(n=283)37.2%
2025年12月日本リサーチセンター「NRCデイリートラッキング」一般ユーザー・20〜69歳(デイリートラッキング)45.4%
2025年11〜12月MM総研「公立小中高における教員向け生成AI利用環境調査」教育委員会・学校単位(n=1,333団体)小中55%・高校91%

MM総研の55%・91%という数字は、「うちの学校の教員は生成AIを活用している」と教育委員会が答えた割合です。教員本人への調査ではありません。

教員本人を直接対象とした調査(仙台大学・アルサーガ)では、2025年時点で28〜37%台。この数字をロジャーズのイノベーター理論(普及曲線)に当てはめると、アーリーマジョリティの中盤から後半にさしかかってきた段階というのが現時点の実態に近い読み方です。一般ユーザー全体でも45.4%(NRC、2025年12月)に達していることも、その見立てを裏付けています。

この平均値の裏には、学校ごとの大きなグラデーションが隠れています。AI活用が日常的に進んでいる学校がある一方で、ほとんど手がついていない学校も同じ自治体内に共存している——というのが現実です。


イノベーター理論で「今どこにいるか」を考える

ロジャーズのイノベーター理論は、新しいものが社会に広まるプロセスを5つの層で説明します。

  • イノベーター(2.5%):技術そのものへの関心で自ら試す。仕様や限界を自分で探りたい人たち
  • アーリーアダプター(13.5%):「まだ多くの人が知らない」「自分は先に気づいている」という感覚で動く。変化を作る側に立ちたい層
  • アーリーマジョリティ(34%):実績ある事例で動く。「自分と似た人が使って成功した」という証拠が必要
  • レイトマジョリティ(34%):社会的圧力で動く。「周りが全員使っている」という現実が前提
  • ラガード(16%):制度・強制力がないと動かない

教員個人の利用率が28〜37%という数字(最新は2025年7月時点)は、イノベーター+アーリーアダプター(合計16%)を越え、アーリーマジョリティ(16〜50%)の中盤にある段階を示しています。2026年3月現在、同水準の調査データは手元にありませんが、この半年でさらに中盤から後半へと進んでいる可能性があります。

ここで重要なのは、同じ学校の中でも、また学校と学校の間でも、段階が大きく異なるということです。私がサポートしている学校でも、同じ学校内・同じ自治体内で、AI活用のグラデーションがかなりあります。毎授業AIを使っている先生もいれば、週に1回程度という先生もいる。さらに、学校単位でも「全教員が日常的に使っている学校」と「ICT主任だけが使っている学校」が同じ自治体に混在しています。仙台大学の使用頻度調査でも、このグラデーションが数字にはっきり表れています。

引用:仙台大学AI教育研究チーム「生成AIの教育利用状況と意識に関する全国調査」

AI活用・AI導入の「普及施策のミスマッチ」が起きていないか

ここが本題です。普及の段階によって、有効な施策はまったく異なります。段階に合わない施策をいくら打っても、効果は出ません。

例1:アーリーアダプター向けの施策を、アーリーマジョリティ段階でやる

「AIで何ができるか」を語るビジョン型の講演は、アーリーアダプターには刺さります。「まだ多くの人が知らないことを先に知っている」という感覚で動ける層だからです。しかし先生たちは感動するものの、翌週には何も変わっていない——「何から手をつければいいかわからない」という状態が続きます。

アーリーマジョリティは可能性ではなくリスク回避で動く層です。「失敗したくない」「周りと同じでいたい」。この層に届くのは、「自分と似た立場の人が使って、こういう成果が出た」という具体的な証拠です。先進的な実践事例(「〇〇小学校ではAIで個別最適化を実現」)を紹介されても、先進すぎて自分ごとになりません。

ハンズオン研修も、設計次第で効果が大きく変わります。「自由に触ってみましょう」という形式はアーリーアダプター向けです。アーリーマジョリティには「試して失敗したら恥ずかしい」という感覚が先に立ち、手が止まります。有効なのは「この業務でこのツールをこう使う」という具体的な用途を最初から決めたハンズオンです。何をやるかが明確であれば、アーリーマジョリティでも動けます。

例2:アーリーマジョリティ向けの施策を、レイトマジョリティ段階でやる

レイトマジョリティは、説得や啓発よりも「周りがすでにやっている」という現実で動く層です。自発的な採用を期待するアプローチは機能しにくくなります。

同僚の成功事例発表会を開いても「あの先生は熱心だから」で終わります。「まず1つの業務から試してみましょう」と呼びかけても、試すかどうかの判断を本人に委ねている時点で機能しません。活用事例集・ガイドブックを配布しても、自発的に読んで実践につなげることを期待するのは難しい。

最も典型的なのが、校内勉強会への任意参加の呼びかけです。来るのはアーリーマジョリティ以前の層だけで、レイトマジョリティは「任意」の段階で来ません。来てほしい層に届いていないのです。

レイトマジョリティが動くのは「使う前提」で環境が設計されたとき——研修の必修化、「この業務はこの手順で」という判断不要なレベルのマニュアル整備、校内サポート体制の可視化、そして「周りが全員使っている」という現実です。

段階によって、有効な普及施策と研修の質が根本的に変わる。これが見落とされたまま、ズレた施策を打っている学校が少なくありません。


外部研修の限界と、学校を引っ張るAI人材の育成

外部研修は「AIで何ができるか」を全体に知ってもらう底上げには有効です。しかしアーリーマジョリティが実際に動く最大のトリガー——「自分と同じ立場の同僚が使って成功した」という日常的な観察——は、外部から持ち込めません。

私がサポートしている学校では、あえて私自身が登壇しない研修会・勉強会を開いてもらっています。学校の先生が複数人で自分たちの実践を共有する形で、私は裏方のサポートに徹します。先月末もNotebookLMとCanvaをテーマに実施しました。外部の専門家が語るより、「隣の先生が使ってみたら、こうだった」の方がアーリーマジョリティには届くからです。

さらに踏み込んで言えば、学校の中でAI活用を引っ張るイノベーター・アーリーアダプターを意識的に育てることが、その学校のAI活用水準の天井を決めます。

AI活用のスキル格差は、ICTのそれとは性質が異なります。GIGAスクール構想によって1人1台端末の環境は多くの学校に行き渡りました。しかしAIスキルは、使いこなすほど業務の質と量が変わります。そしてある段階を超えると、「自分の仕事を効率化する」だけでなく「他の先生が授業で使える教材を作れる」ようになります。

私のサポート校の物理の先生は、AIに指示を出してプログラムを書かせる「バイブコーディング」という手法で、物理シミュレーションデモ教材を自作しました。ケプラーの法則、物体の衝突実験、モンキーハンティングなど、重さや速さを変えながら目で見て直感的に理解できるデモ教材をウェブで公開し、自分の授業で活用しながら、他の先生にも使ってもらう準備を進めています。プログラミングの専門知識がなくても、AIを使いこなすことでこうした教材が一人の先生の手から生まれるようになっています。

こうした先生がいる学校といない学校の差は、これから大きく広がっていくと私は考えています。外部講師が年に数回来る研修だけでは、この差は埋まりません。


普及段階を見据えた施策設計を

MM総研の調査では、教育委員会の81%が生成AI活用に「課題あり」と回答しています。セキュリティ(42%)、著作権リスク(41%)、ルール整備(39%)、ハルシネーション(37%)、詳しい人がいない(36%)、事例やノウハウ不足(30%)——これらは私が研修や相談の中で受ける問いの内容と一致します。

ただし、これらの課題を「解決すれば普及が進む」と考えると、施策の設計を誤ります。「詳しい人がいない」「事例不足」はアーリーマジョリティへの対処として有効な問題設定ですが、AI活用をさらに全体に広げていくためには、普及がある程度進んだ段階での支援設計も並行して考える必要があります。同じ「課題」という言葉で括られていても、必要な処方は段階によってまったく異なります。

自治体・学校の普及段階を見ずに一律の研修・ガイドライン整備・事例集配布を行っても、来る人・読む人はすでに動いている層です。その層への投資対効果は高くない。

教育委員会が設計すべきは、管内の学校群を段階別に把握し、段階に応じた支援メニューを使い分ける仕組みです。たとえば私がサポートしている学校では、4段階の活用ステージと使用頻度を組み合わせたアンケートを定期的に実施し、「この学校は校務活用はレイトマジョリティ段階だけど、授業活用はまだアーリーアダプター段階」という現在地を把握した上で、次に投入する施策を決めています。

「管内の学校のAI活用が進んでいるか」ではなく、「どの学校が・どの段階にいて・何が次の施策になるか」を把握すること。そこから段階に合った支援を設計することが、一律施策の繰り返しを脱する出発点になります。

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著者

AI教育コンサルタント / 株式会社FlipSilverlining 代表取締役 / 守谷市生成AI活用推進プロジェクトアドバイザー
自治体のAI教育アドバイザーや私立中高の教育コンサルとして学校現場に入りながら、AI時代の教育について書いています。著書3冊(明治図書)、教員研修・講演120回以上、授業視察1,000回以上。

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