今週最も重要なニュースは、高校教科書検定で生成AI関連の記述が30点へ急増したことです。次期学習指導要領の改訂を待たずに、教科書が社会変化を教室に届ける先行経路になりつつあります。同じ週に開かれた次期学習指導要領の社会・地歴・公民WGでも、授業における生成AIの利活用が正面から議論されました。このほか、通信制高校の教育課程の見直しや学校図書館の機能再定義など、「多様な学び方をどう支えるか」に関わる動きも複数ありました。
高校教科書検定、生成AI記述が7教科30点に急増——次期指導要領を待たない「先行経路」
文部科学省は3月24日、主に高校2・3年生が使う教科書の検定結果を公表しました。2027年度から使用される改訂版で、現行学習指導要領では2巡目の検定です。専門教科を含めて224点が合格し、不合格は歴史関連4点でした。
今回の検定で最も注目すべきは、生成AIに関する記述の急増です。生成AIについて記述した教科書は7教科12科目の計30点に上りました。学習指導要領の改訂周期が約10年なのに対し、教科書検定は4年周期。教科書は次期学習指導要領の改訂を待たずに、AIという社会変化を教室に届ける先行経路になっています。
注目すべきは、AI関連の記述が情報科にとどまらず、国語、美術、公民など7教科に広がっていることです。AIの仕組みや利便性だけでなく、ハルシネーションや著作権侵害といったリスク面に踏み込んだ記述も目立ちます。AIを「使い方」として教えるフェーズから、AIの存在を前提に「考え方」や「表現」を問い直すフェーズへと、教科書の設計思想が変わり始めています。
これは、筆者が学校現場で感じている変化とも重なります。1年前は「生成AIを授業で使ってよいのか」が問いの中心でしたが、いまは「AIがある前提で、何をどう教えるのか」という問いにシフトしつつあります。
デジタルコンテンツの充実も顕著で、合格した共通教科196点のうちQRコードが載っているのは195点。ほぼ全教科書にデジタルコンテンツが標準装備される時代に入りました。
ただし、教科書に載ることと教室で使われることの間には大きなギャップがあります。OECDのTALIS 2024調査によれば、AIを授業で使った日本の中学校教員は17%で、参加55カ国・地域中54位でした。教科書がAIを扱い始めても、それを使って授業を組み立てられる教員がどれだけいるかは別の問題です。教科書の進化に教員の研修体制が追いつくかどうかが、この「先行経路」が実際に機能するかどうかを左右するでしょう。
社会・地歴・公民WGで生成AI活用を議論——「使いこなす側の主体性」が鍵に
次期学習指導要領に向けた中教審教育課程部会の社会・地理歴史・公民ワーキンググループ(WG)は3月23日、第6回会合を開きました。「課題を追究・解決する活動の充実」が主要議題でしたが、議論は生成AIの利活用に集中しました。
文科省は、AIの回答はあくまで参考の一つであり最適解とは限らないという基本姿勢を示した上で、情報の信ぴょう性を検証する力を含めた資料活用能力の見直しが必要だとしています。
興味深いのは、複数の委員から出された「主体性」への言及です。京都大学の諸富徹委員は、生成AIによるコピペ的なレポートが大学ですでに問題になっており小中高でも同様の課題が生じると指摘した上で、「AI活用は技術であり、答えではない」と述べ、課題を自分ごととして捉える動機付けこそが決定的に重要だという認識を示しました。
この指摘は、筆者が現場で繰り返し目にしている問題と直結します。「AIが調べてくれる」時代に、子どもが自ら課題を見つけ、自分の言葉で考察する力をどう育てるか。これは社会科に限らず、すべての教科に共通する問いです。
前号で取り上げた理数探究WGでの「AIが解く力を代替する時代に、問う力をどう育てるか」という論点と合わせて考えると、次期学習指導要領の議論は教科を問わず「AI時代の学力とは何か」という問いに収斂しつつあることがわかります。
「学びの多様化学校」全国84校に拡大
文部科学省は3月26日、不登校の児童生徒を対象に特別な教育課程を編成する「学びの多様化学校」の設置状況を公表しました。2026年4月に新たに25校が開校し、全国の設置数は84校に拡大する見込みです。2025年4月の58校から45%の増加で、「すべての都道府県・政令市への設置」に向けた動きが加速しています。
中教審のWGでは、児童生徒一人ひとりに合わせた「個別の指導計画」の具体像も議論されており、教育内容や授業時数の弾力化、前の学年にさかのぼった学習を認める方向性が示されています。
高校通信制の教育課程を議論——制度と現実の乖離をどう埋めるか
高校教育改革を検討する「高等学校教育の振興に関する懇談会」の第3回会合が3月25日に開かれ、通信制課程の教育課程のあり方が議論されました。
通信制はもともと勤労青年の学習機会として設計された制度ですが、現在の生徒像は大きく変わっています。不登校を経験した生徒だけでなく、自分のペースで学びたい生徒やスポーツ・芸能活動と両立する生徒など、多様な背景を持つ生徒が集まるようになりました。私立通信制の生徒数はこの20年で約3倍に膨らむ一方、一部では対面指導の不足や教員免許を持たない者による指導といった質の問題も表面化しています。もちろん、独自の教育理念のもとで質の高い教育を実践している通信制の学校も少なくありません。会議では、カタリバの今村久美委員が通信制を「教育の中核的モデル」として捉え直すべきだと主張し、京都大学の塩瀬隆之委員も「第一志望として通信制を選ぶ生徒が増えている」現実に制度が追いついていないと指摘しました。
この議論には、慎重な目配りが必要だと感じています。関係者の立場によって、見えている景色がまったく違うからです。
筆者が知り合いの先生方と話していると、現行の通信制をめぐる制度設計に対して強い問題意識を持っている方が少なくありません。全日制の学校は教員配置・施設整備・授業時数の確保に相応のコストと労力をかけて教育の質を担保している。ところが現行の制度では、通信制の枠組みを使えば単位認定やカリキュラム編成の要件が大幅に異なるため、実態として全日制に近い教育を行っていても、異なるルールのもとで運営される構造になっている。同じ「高校卒業」という資格が大きく異なる条件のもとで出されているという、制度の非対称性への問題意識です。これは個々の学校への批判というより、制度が現実の多様な運営形態を想定しきれていないことから生じている構造的な課題です。
一方、子どもや保護者の側から見れば、通信制は自分に合った学び方を選ぶための重要な選択肢になっています。不登校を経験した生徒にとって、毎日登校しなくても学び続けられる環境は命綱にもなり得る。消極的な受け皿ではなく積極的な選択として通信制を捉える家庭が増えていることは、制度の議論の前提として見落とせません。
結局のところ、「勤労青年の学習機会」として設計された制度が、現在の多様な生徒像やさまざまな運営形態を想定しきれていないことに問題の根があります。文科省が今回提示した面接指導回数の明確化やメディア減免の適正化は、質の担保に向けた重要な一歩です。ただし、基準の厳格化が一律に進めば、通信制ならではの柔軟性、まさに生徒や保護者が求めている部分を損なうリスクもある。質の底上げが、画一化の天井にならないよう、丁寧な制度設計が求められます。
2月に公表された高校教育改革のグランドデザイン、参院で審議中の高校授業料無償化法案と合わせて、高校教育を取り巻く制度が同時に動いています。無償化ですべての高校生が支援の対象になる以上、どの課程であっても教育の質をどう担保するかは避けて通れません。それぞれの現場の声を丁寧に拾った議論を期待します。
学校図書館を「学校の中心」に——有識者会議が報告書を公表
文科省の「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」が3月17日に報告書を公表しました。学校図書館を「学びの深化を担い、一人一人の『好き』を育み『得意』を伸ばす居心地の良い学校の『中心』へ」と定義し、読書センターに加えて学習センター・情報センターとしての機能強化を求めています。登校時から下校時までの常時開館、個別学習ブースやラーニングコモンズの設置、不登校の児童生徒の居場所としての活用なども盛り込まれました。文科省はこの報告書を踏まえ、2016年以来10年ぶりとなる「学校図書館ガイドライン」の改定に着手します。
筆者がサポートしている学校でも、図書館リニューアルの話はしばしば出てきます。1人1台端末が当たり前になり、探究学習で生徒がディスカッションする場面が増えたことで、「静かに本を読む場所」という図書館の定義が合わなくなっている。電子書籍の貸出に対応したい、探究学習の拠点にしたい、リラックスしながら創造性を発揮できる空間にしたい——構想はどの学校も持っています。
ただし、現場で繰り返し聞くのは2つの壁です。1つは予算。もう1つは、教員が忙しすぎて図書館の再設計にまで頭と手が回らないという問題です。報告書も司書教諭や学校司書の積極採用・常勤配置を求めていますが、この点も大きなボトルネックになるでしょう。理念がどれだけ正しくても、人がいなければ図書館は開けません。
【情報源】
- 教育新聞「高校中学年向け教科書の改訂版が検定合格 AI扱ったものも」(3/24)
- 時事通信「生成AI、多様な視点で 大半にQRコード掲載 高校2、3年教科書検定」(3/24)
- 東京新聞「教科書検定、生成AI記述30点 高2使用で7教科」(3/24)
- OECD「TALIS 2024 Results」
- 教育新聞「生成AI活用、主体性が重要 『課題を追究・解決する活動の充実』で」(3/23)
- リシード「『学びの多様化学校』全国84校に、4月開校は25校…文科省」(3/26)
- 教育新聞「不登校児童生徒の『個別の指導計画』 教育内容や授業時数を弾力化」(3/17)
- 教育新聞「高校改革で通信制の在り方議論 面接指導やメディア減免を適正化」(3/25)
- 文部科学省「図書館が拓く未来の学びと地域社会(報告書)」(3/17)
- リシード「『図書館が拓く未来の学びと地域社会』報告書公開…文科省」(3/24)
