ゴールデンウィーク前後の2週間、デジタル教科書とAI教育という2つの大きな政策テーマが同時並行で動きました。4月28日、デジタル教科書を含む学校教育法等の一部改正法案が衆議院本会議を通過。同じ日に松本洋平文科相が「中高含め国語・社会・道徳では全デジタル教科書を認めるべきでない」と踏み込んだ発言を行い、超教育協会がこれに懸念を表明する見解を発表しました。さらに4月30日、文部科学省は「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組」を公表。校務での生成AI利活用が前年から大きく伸びていることが明らかになっています。同じ4月30日、教員採用試験第1次選考の共同実施に51自治体が参加することも公表されました。デジタル教科書の制度的枠組みが整いつつある中で、その運用ルールやAI活用の次の論点が同時に立ち上がってきた2週間でした。
学校教育法等改正案、衆議院本会議で可決 デジタル教科書3形態の選択制度が法律レベルで決着
4月6日号(閣議決定)、4月20日号(衆院文部科学委員会での可決)と続けて取り上げてきたデジタル教科書の制度設計が、4月28日の衆議院本会議可決でひとまず法律レベルの決着を見ました。
改正案は、教科書の形態を「紙のみ」「紙とデジタルのハイブリッド」「全デジタル」の3形態から各学校・教育委員会が選択できる仕組みを正規化するものです。デジタル形態を含む教科書も、小中学校ではこれまで通り無償配布の対象となります。施行は2027年4月1日、次期学習指導要領に基づく初の検定教科書から順次適用される見通しです。附帯決議では、ICT支援員配置や事務的負担軽減への国の支援拡充も求められました。法案は今後、参議院での審議に入ります。
完全デジタル教科書をめぐる4月28日の対立 文科相の踏み込みと超教育協会の懸念表明
法案の衆院通過と同じ4月28日、デジタル教科書の運用ルールをめぐって、文科省と民間有識者団体が対照的な発信を行う場面がありました。
松本文科相は同日の閣議後会見で、完全デジタル教科書について「現時点では小学校4年生以下では認めるべきでない」とした上で、小学校5年生以上については「教科一律ではなく、教科の特性を踏まえた対応が必要」と説明しました。具体的には国語・社会・道徳について「中学校・高校段階を含め、全学年で認めるべきでない」との認識を示しています。理由として「文脈を理解しつつ読み込んだり書き込んだりする学習場面が想定される国語や道徳、文章と資料を一覧で見る学習場面が多い社会などでは、全てがデジタルの教科書はふさわしくない」と述べました。
これに対して、一般社団法人超教育協会は同じ4月28日に「デジタル教科書に関する大臣答弁についての見解」を発表し、深い懸念を表明しました。読上げ機能や拡大表示、記録・再生といった機能が「多様な学習者それぞれにとって不可欠な支援」として機能してきたことを根拠に、個別最適な学びとインクルーシブ教育を推進する基盤としてデジタル教科書を位置付けるべきだと主張。「特定の学年や教科において一律に活用を制限する方向性が示されるとすれば、それは実証に基づく政策形成の観点から極めて慎重であるべき」と指摘しました。
私自身は、今回の論点の中核にあるEBPM(Evidence-Based Policy Making=実証研究に基づく政策形成)の重要性を強く意識する立場です。教育政策において、特定の学年や教科で活用を制限する判断には、実証データの裏付けが欠かせません。小学校4年生以下の制限には一定の合理性があると考えられる一方、教科一律で「中高含め全学年で全デジタル教科書を認めない」という方向には、現場感の観点から疑問が残ります。
今回の制度変更の本旨は「3形態から学校・自治体が選べる」点にあります。中学生・高校生は使い方の成熟度も小学生とは大きく異なり、教科の特性だけで一律に選択肢を狭めることは、せっかくの選択制度のメリットを削いでしまいます。学校・自治体が個別の文脈で判断できる余地を残すことが重要ではないでしょうか。
校務での生成AI活用、文科省が「これまでの取組」を整理 ステージ1の量的進展を裏付ける数字
4月30日、文部科学省は「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組」を公表しました。中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会の「教職課程・免許・大学院課程ワーキンググループ」がまとめた資料です。
注目したいのは、校務における生成AI利活用の経年変化です。GIGAスクール構想下の校務DXチェックリスト調査による経年データを以下に示します。
| 区分 | 令和5年度 | 令和6年度 | 令和7年度 |
|---|---|---|---|
| 全く活用していない | 76.7% | 58.9% | 16.3% |
| 一部の教職員(半分未満)が活用 | 22.0% | 38.4% | 66.6% |
| 一部の教職員(半分以上)が活用 | 0.9% | 2.2% | 14.5% |
| ほぼ全員の教職員が活用 | 0.3% | 0.5% | 2.6% |
「全く活用していない」と回答した学校が、令和5年度の76.7%から令和7年度には16.3%へと急減しました。AI浸透のフェーズが「導入是非を議論する段階」から「実装の試行錯誤」へと、わずか2年で移行したことを示すデータです。ただし、教職員の半数以上が日常的に生成AIを活用している学校(「半分以上」と「ほぼ全員」の合計)は、令和7年度時点でも17.1%にとどまります。
もう一つ注目したいのは、効果実感の高さです。教職員の半数以上が活用している学校のうち、98%が「校務DXに取り組んだことで教職員の働き方の改善に効果があった」と回答しています。実装が進めば確実に成果が出ることを示す重要なエビデンスです。
資料には具体的な業務時間削減事例も整理されています。例えば、埼玉県新座市では、20名以上の所見作成が1か月程度から1週間程度に短縮されました。特別支援学級では、生徒ごとにプロンプトを工夫することで、これまで以上に各生徒の様子を細やかに見取ることができるようになったとされています。所見の作成については、私のポッドキャスト「先生のためのAIラジオ」第5回「生成AIの校務活用ベスト3、所見・保護者メール・授業スライド」でも具体的な使い方を紹介していますので、よければ聞いてみてください。他にも、東京都八丈町の学習指導案作成(90分から約30分へ)、神奈川県川崎市の事例情報収集(1時間から20分へ)、兵庫県宝塚市の研修報告書素案作成(5〜6時間から1時間へ)など、現場の実感に近い具体例が並びます。
また、今回の資料が教員養成部会から発信されていることにも注目です。教職課程・免許・大学院課程WGがまとめたということは、「これから先生になる人に何を教えるか」「現職教員が大学院で何を学べるか」という議論に直結する位置づけです。AIが学校教育の前提になりつつある中で、教員養成の段階からそれを織り込んでいく必要性を、文科省として明示したと読めます。
最後に、文科省への期待として一点。校務での98%という効果実感の数字が、ここまでの校務AI普及のブースターになってきたことを踏まえると、学校・教員に対して、学習場面でAI活用が学びに効果があったかを継続的に把握する調査が、今後の重要な論点になっていくのではないでしょうか。ステージ3(生徒が授業で活用)を健全に進めていくためには、現場の教員が肌感覚で持っている効果実感を可視化していく仕組みづくりが鍵になりそうです。
教員採用試験 第1次選考、51自治体で共同実施へ 27年度から3日程で
文部科学省は4月30日、2027年度から始まる公立小中高校教員採用試験の第1次選考の共同実施について、参加予定の51自治体を公表しました。37道府県と13政令指定都市、独自採用を行う大阪府豊能地区を合わせた数で、採用試験を実施する68自治体の約75%にあたります。
関東圏では東京都が独自試験を継続しており、隣接する神奈川県、埼玉県、千葉県も今回の共同実施には参加していません。報道では、東京と日程をそろえて独自試験を貫くことで合格者の流出を防ぐという関東圏の自治体側の判断が背景にあるとされています。共同実施は1次試験(筆記)のみ。初年度は5月8日、6月12日、7月10日の3日程で実施され、教養試験は40問程度・60分、教科専門試験は25問程度・60分のマークシート方式となります。問題作成は外部事業者に委託し、費用は参加自治体で等分負担となる見込みです。
これまで各教育委員会や教員が問題作成を担ってきた負担を軽減する仕組みであり、教員不足が深刻化する中、採用業務の効率化は学校の働き方改革の一環として位置付けられます。
【情報源】
- 教育新聞「デジタルな形態を含め正規の教科書に 法案が衆院を通過」2026年4月28日
- 教育新聞「全てデジタルの教科書 中高含め国社道は認めるべきでない」2026年4月28日
- 超教育協会「デジタル教科書に関する大臣答弁についての見解」プレスリリース 2026年4月28日
- 文部科学省「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組」2026年4月30日(PDF)
- 教育新聞「51自治体で教採の一次試験を共同実施 27年度は3日程で」2026年4月30日
- 日本経済新聞「共通の教員採用試験、51自治体参加へ 東京は見送り」2026年4月30日
- 文部科学省「教員採用選考に係る第一次選考の共同実施について」令和8年4月30日(PDF)
