「海外では、学校のAIが全面禁止になったんですよね」。職員室や保護者会で、そう聞かれたことはないでしょうか。
今年9月のニューヨーク市、6月のノルウェー。見出しはどちらも「禁止」でした。ただ、どちらも全面禁止ではありません。禁止しているのは一部の学年で、見直しの時期も決まっています。ポッドキャスト「先生のためのAIラジオ」第30回では、この2つの事例をベースに、海外のAI禁止の実態を読み解きます。
ニューヨーク市の禁止は、1年間の「モラトリアム」

2026年9月2日、全米で最も大きな学区であるニューヨーク市の市長と教育長が、学校で子どもが使う生成AIを止めると発表しました。対象は2歳児のクラスから8年生(日本の中学2年生にあたる年齢)までの子どもで、およそ60万人にのぼります。
見出しでは「AI禁止」と伝えられましたが、発表を読むと注目すべき点が2つあります。1つ目は、永続的な禁止ではないことです。市はこの措置を「モラトリアム」と呼んでいます。いったん禁止して、その間にAIが子どもの学びにどう影響するのかを調べ、来年度の方針を決める。そのための1年間です。生徒、先生、保護者、専門家などが入った会議体が影響を調べ、2027年4月に提言をまとめる予定です。
2つ目は、学年の指定があることです。止めているのは8年生まで。実はニューヨーク市の高校では、審査を通った教育用のAIに限って、試験的な利用が始まっています。ChatGPTやClaudeのような汎用のAIを授業に入れたわけではありません。
市が禁止の根拠に挙げたのは、小さい学年で使うと人との関わりや手を動かして学ぶ体験の妨げになりうること、そして自分でするべき思考をAIに任せてしまう心配です。子どもの発達と学びへの心配から、いったん止めて影響を調べる。それがニューヨーク市の判断です。
ノルウェーの小学校は原則使わず、高校は9割が授業で活用

2026年6月19日、ノルウェーの首相と教育大臣が、小学校ではAIを原則として使わないという方針を発表しました。対象は1年生から7年生、6歳から13歳ごろの子どもたちです。ニューヨーク市と違い、国としての方針です。
国を動かした事情は2つあります。1つ目は、デジタル端末の経験です。背景には学力の低下があり、PISAでは4人に1人が読解でOECDの最低基準に届いていません。2022年の調査ですから、生成AIのせいではありません。この低下は、低学年まで1人1台の端末を広げた時期と重なります。原因とは限りませんが、今は低学年の端末を控えて紙の教科書を増やしています。教育大臣いわく、「低学年に、よく考えずに端末を入れたときと同じ過ちを繰り返してはならない」。そして2つ目は、考える作業をAIに任せすぎる心配、いわゆる認知的オフロードへの懸念です。発表の文書は、無批判に使うと学びの大事な段階を飛ばしてしまうおそれがある、と述べています。
この方針は法律ではなく、拘束力のない国の勧告です。それでも、小学校で使えないようにした自治体も出ています。見直しの節目は2027年3月です。ただし、止めているのは小学校までです。中学生は先生が先に十分な力をつけてから少しずつ、高校ではAIの適切な使い方を学ぶ、と勧告は述べています。2025年秋の校長調査では、93%の高校が授業でAIを使っていました。
ニューヨーク市とノルウェー、共通するのは2つ
ニューヨーク市とノルウェーを並べると、共通点が2つ見えてきます。
1つ目は、「禁止」と言っても、止めているのは下の学年だということです。ノルウェーは日本の中学1年生、ニューヨーク市は中学2年生にあたる学年まで。その上の学年では使っています。高校を見れば、ノルウェーは9割が授業で使い、ニューヨーク市は審査を通った教育用のAIを使っています。小学生の利用をどうするかは、世界的に見ても、まさに今、答えを探している最中なのです。
2つ目は、止める理由です。どちらも、発達段階への配慮と、考える過程をAIに任せてしまう心配を挙げています。小学生のうちは、人との関わりを先に育てる。考える過程をAIに任せてしまえば、学ぶ力や考える力が落ちてしまう。後者は第20回でお話しした認知的オフロードの問題で、研究の多くは大学生など上の学年が対象です。小中学生で確かめられたわけではありませんが、可能性はある。だから、いったん止めて考える。それが、2つの判断に共通する考え方です。
そして、どちらも来年、見直す時期を決めています。ニューヨーク市は4月に提言、ノルウェーは3月に節目。禁止して終わりではないのです。
「AIを使って学ぶ」と「AIについて学ぶ」は、別の話

日本でも、次期学習指導要領に向けた審議まとめで、小学生とAIの関係が議論になっています。読み解くときに、ぜひ覚えておいてほしいことがあります。「AIを使って学ぶ」ことと「AIについて学ぶ」ことは、別の話だということです。
ニューヨーク市とノルウェーが止めているのは、「AIを使って学ぶ」ほうです。「AIについて学ぶ」ことまで止めたわけではありません。AIの仕組みや特徴を知ることは、むしろ小学生のうちから学んでほしいことです。
2026年10月5日に中央教育審議会の部会が取りまとめた日本の審議まとめも、同じ分け方で整理されています。小学校3・4年生はAIについて学ぶ。学年ごとの学習イメージでは、実際にAIを体験するのは5年生から、質問や依頼を入力して生成AIを使うのは6年生からです。学習指導要領として決まったわけではありませんが、この分け方を知っておくと、海外のニュースも、これからの日本の議論も読みやすくなります。
海外の判断も、暗中模索の中で選ばれた方針の一つです。だからこそ、「海外が禁止したから、日本も禁止しなければ」と短絡的に考えないでほしいのです。何を、何年生まで、なぜ止めているのか。そこまで知ったうえで、目の前の子どもの年齢に合ったガイドラインを、落ち着いて考えていく必要があるでしょう。

番組を聴く
本編では、ここまでの内容をあきお先生との対話で掘り下げています。中でも聴いてほしいのは、終盤の「日本の小学校はどうするのか」という話です。この夏、あきお先生が研修で出会った小学校の先生たちは、ほとんどが教育専用のAIを使っていました。なぜ汎用のAIではないのか。心配な点を抑えながら使う小学校ならではの工夫とあわせて、お話ししています。
「先生のためのAIラジオ」#30 は、こちらからお聴きいただけます。通勤時間や朝の準備のお供にどうぞ。
認知的オフロードの考え方は、#20 AI教育のエビデンス、思考力が落ちる分かれ目はどこかで紹介しています。
