「AIを使わせると、考える力が落ちませんか。」
保護者からこう聞かれて、言葉に詰まった経験はないでしょうか。答えに迷うのは当然です。少し前まで、答えの拠りどころになる研究がほとんどなかったのですから。
状況は変わりつつあります。ここ2、3年でAIと学習の研究は着実に積み上がり、どんな使い方をすると思考力が落ちるのか、その分かれ目が具体的に見えてきました。ポッドキャスト「先生のためのAIラジオ」第20回では、この分かれ目を掘り下げました。
練習中は伸びたのに、テストで下がった

手がかりになるのは、2025年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された、トルコの高校での実験です。約1000人の生徒を対象に、数学の演習時間の条件を3つに分けました。教科書とノートだけで解くグループ、ChatGPTのような汎用AIを使えるグループ、そして答えを教えずヒントを出すように設計されたAIを使えるグループです。
汎用AIのグループは、練習中の成績が教科書とノートのグループより48%高くなりました。ところが、AIが使えない試験になると結果は逆転します。AIを使わなかった生徒より、17%低い点数になってしまったのです。
AIが答えを出してくれるので、練習中の課題は順調に片づきます。ただ、その分だけ「どう解こうか」と頭をひねる機会は減っていました。その差が、AIの使えない試験で表に出たと考えられます。
電卓もカーナビも、脳の外に仕事を出す道具

この現象を読み解く鍵が、「認知的オフローディング」という言葉です。簡潔に言うと、脳の外に仕事を出すこと。電話番号はスマホに覚えてもらう、計算は電卓に任せる、道順はカーナビに教えてもらう。道具がなければ自分の頭でやっていたことを、外の道具に任せる行為を指します。
これ自体は悪いことではありません。仕事や生活では、むしろ強力な味方です。ただし、学習の文脈では話が変わります。その授業で育てたい思考までAIに任せてしまうと、鍛える機会そのものが失われてしまうのです。先ほどの実験で起きていたのは、まさにこれでした。
認知的オフローディングは、文部科学省で進んでいる生成AIガイドラインの改定に向けた議論でも、検討項目に挙がっています。これからのAI教育を考える上で、押さえておきたい概念です。
まず自分で考える。それからAIに聞く

それでは、どのようにすれば認知的オフローディングの落とし穴を避けられるでしょうか。1つ目のポイントは、順番です。
参考になるのが、エッセイを書くときの脳の働きを測ったMITの研究です。参加者は、自分の頭だけで書く、検索エンジンを使う、AIを使うという3つのグループに分かれて書き続け、その後、条件を入れ替えました。すると、最初からAIを使っていた人は、AIなしで書く段になっても、脳の働きがあまり活発になりませんでした。一方、自分の力で書いてきた人がAIを使い始めると、脳の広い範囲が連携して働いたと報告されています。
この研究はまだ査読前で、測ったのも学力ではなく脳の働きです。これだけで学習効果の結論は出せませんが、順番が持つ意味を示す手がかりにはなります。いきなりAIに聞かせるのではなく、まず自分で考えさせる。行き詰まったら、AIに相談させる。この流れを授業に組み込むことが、最初のポイントになります。
答えを出すAIか、ヒントを出すAIか

2つ目のポイントは、使うAIの設計です。
先ほどのトルコの実験には続きがあります。答えを教えず、段階的なヒントやよくある間違いへの注意を組み込んだAIを使ったグループは、試験でのマイナスが消えていました。答えを出すAIで起きた悪影響が、設計の工夫でほぼ抑えられたのです。ただし、AIを使わなかったグループの成績を明確に上回ったわけでもありません。害を消すことと、学力を伸ばすことは、別の問題なのです。
答えを出さないAIを用意するには、教育に特化したAIサービスを使う、汎用AIに備わった学習モードをオンにする、先生がジェムやGPTsを自作する、という3つの方法があります。どれを選ぶかは、校種や環境によって変わってきます。
番組を聴く
AIを使っただけで、考える力が落ちるわけではありません。ただ、その授業で育てたい思考までAIに代行させれば、それを練習する機会は減ります。
だからこそ、何をAIに任せて、何を生徒本人に残すのか。その線を引くことが、これからの授業設計の中心になります。逆に言えば、線さえ引ければ、AIは学習の心強い味方になってくれるでしょう。
答えを出さないAIを、どう用意してどう配るか。番組では、NotebookLMを学習モードにして渡すひと手間から、エビデンスはまだない「3つ目のポイント」まで、実践の続きをお話ししています。
「先生のためのAIラジオ」#20 はこちらからお聴きいただけます。
