教材研究のために、教科書の本文をAIに読み込ませる。ここで一度、手が止まった経験はないでしょうか。
気になるのは著作権です。ダメだと言われたわけではありません。かといって、いいと言われたわけでもない。その状態のまま使い続けるのは、どこか落ち着かないものです。ポッドキャスト「先生のためのAIラジオ」第17回では、この疑問を教科書会社に直接ぶつけた先生の話を入り口に、教科書とAIの付き合い方を掘り下げました。
同じ文面で、3社に聞いた先生がいる

現役の小学校教員である川合智宏先生が、自分が授業で使っている教科書の発行会社3社、東京書籍、光村図書、教育出版に、同じ文面の問い合わせメールを送りました。聞いたのは「入れる」「作る」「使う」の3つです。
- 教材研究のために、教科書の本文をAIに入れていいか
- その結果をもとに、授業で見せるスライドを作っていいか
- そのスライドを、自分のクラスの授業で使っていいか
質問の設計が見事でした。入れるのは文章だけでイラストや写真は含めない、使うAIは入力を学習に使わせない設定にしてある。2つの前提を先に示したうえで、「はい」「いいえ」で答えられる形に整えています。漠然と「AIを使っていいですか」と聞かれても、聞かれた側は答えようがありません。答えやすい形にしたからこそ、3社とも応じてくれたのだと思います。
届いたのは、いずれも驚くほど丁寧な回答でした。ただし、その中身は少しずつ違っていたのです。
問い合わせの経緯と3社からの回答は、川合先生ご本人がXで公開されています。
3社の回答に共通していた、3つの条件

答えが分かれたと言っても、土台の部分は3社ともほぼ同じでした。
1つ目は、学習オフの設定です。入力した内容をAIの学習に使わせない設定にしておくこと。学校のGoogle WorkspaceのGeminiのように初めからその設定になっているものもありますが、ChatGPTなどは自分で設定する必要があります。今のうちに確認しておきましょう。
2つ目は、必要な範囲にとどめること。ここには量、種類、時間の3つの意味があります。量は、その授業に必要な分だけ。教科書を丸ごと読み込ませるのは、どの社の回答でもNGでした。種類は、イラストや写真を除いた文章だけ。時間は、使い終わったら消すこと。ツールの中に溜め込まない、ということです。必要な分を、必要な形で、必要な間だけ。番組であきお先生が話していた、必要な箇所だけをPDFにして読み込ませる使い方が、まさにこの形です。

3つ目は、公開も共有もしないこと。ネット上に置いて不特定多数がアクセスできる状態にしないのはもちろん、同僚との共有も遠慮してほしい、というのが3社に共通した姿勢でした。AIで作った教材がうまくできると、つい学年で共有したくなります。けれども、ここは踏みとどまるところです。
なぜ、同じ質問に3つの答えが返ってきたのか
鍵は、教科書という本の成り立ちにあります。教科書会社は、自社で書いたものだけで1冊を作っているわけではありません。たくさんの作家、詩人、イラストレーターから作品を預かって、1冊にまとめている立場です。
つまり、教科書に載っている文章の著作権は、その多くが教科書会社のものではないのです。自分が権利を持っていないものについて、「使っていいですよ」とも「ダメですよ」とも言うことはできません。
3社のうち、教育出版は「生成AIへの利用に関する許諾を出すことはできない」と回答しました。一見そっけない回答に思われるかもしれませんが、預かっている立場を踏まえれば、これは最も正確な答え方です。検討の過程まで示された、3社で最も詳しく誠実な回答でもありました。
一方、東京書籍と光村図書は、教科書会社としての許諾ではなく、質問した先生の立場から見た整理を返してくれました。法令やガイドラインで許容されている範囲内であれば、私たちの許諾は必要ありません、と。
その「法令で許容されている範囲」を支えているのが、著作権法第35条です。文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」でも、授業の過程であれば第35条の範囲内で生成AIを利用できるという整理が示されています。ただし、この盾が効くのは授業の場面だけです。保護者会や職員会議、学校の公式SNSになると外れます。
生徒にこう聞かれたら、どう答えますか

番組では、こんなクイズを出しました。
生徒から「先生、自分の教科書を全部スキャンして、自分のNotebookLMに入れていいですか」と聞かれました。あなたは、どう答えますか。
教科書を丸ごと読み込ませるのはNG。3社の回答はそう揃っていました。では、生徒にも同じように答えるべきなのでしょうか。実はこの問いには、先生と生徒とで答えが逆転するという意外さがあります。その理由は、ぜひ本編で確かめてみてください。
条件がはっきりすると、かえって使いたくなる。番組の最後には、あきお先生からそんな言葉も出ました。著作権がわからないままAIから距離を取るより、知ったうえで堂々と使う。そのほうが、先生にとっても子どもたちにとっても健全ではないでしょうか。

番組を聴く
「先生のためのAIラジオ」#17 はこちらからお聴きいただけます。
