(承前)プログラミング教育が必修化された背景には、第4次産業革命とIT人材不足があります。そのような時代背景を踏まえて、文部科学省の考える「プログラミング教育の”Know Why(なぜプログラミング教育をするのか)”」と「IT人材育成戦略の本音」を紹介してきました。ここで保護者・教員の立場として頭によぎるのが「プログラミングを学んでおけば、子供の将来は安泰かもしれない」という考えでしょう。果たして、プログラミングを学んでおけば将来仕事に困らないのでしょうか。考えてみましょう。
プログラミングを学べば仕事に困らない?
Facebookのある役員がイベントで次のように語ったそうです。「プログラミングを学ぶのなら、生涯仕事に困らないことを私は保証しよう」と。残念ながら一次情報を見つけられなかったので発言の真偽は不明ですが、感覚的には納得できる言葉だと思います。
実際、「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、2015年時点で約17万人のIT人材が不足しており、2030年には約59万人程度まで人材の不足規模が拡大すると予測されています。政府はこの人材不足を補うために、小学校でもプログラミング教育を必修化にするほどです。プログラミングを学んでおけば、将来仕事に困らなさそうですね。
プログラミングの価値は下がる?
ところが、有識者の中には真逆のことを主張する人たちもいるのです。【本紹介】10年後の仕事図鑑で紹介した堀江貴文氏と落合陽一氏による書籍では、将来のエンジニア(プログラミングを仕事にする人)の価値が下がることを次のようなイラストで表現しています。
「食いっぱぐれない仕事」として挙げられるエンジニアも風化か、自動化AIに代替される可能性が大きい職種の1つだ。特に給料の高い人間から、順番に仕事を奪われていくだろう。そもそも、プログラミングは一部の人間にしかできないような専門職ではない。安価で技術を学べる学習サービスが次々に誕生しているし、いずれエクセル程度に誰もができるようになる。カッティングエッジ(最先端)なことをやり続けられる人は話は別だが、それ以外はただのコモディティだ。プログラミングに慣れることが大切だが、それはあくまで読み書きソロバンであって、専門職にしようとは考えないほうがいい。
10年後の仕事図鑑より引用
仕事に困る?困らない?
どちらの言い分も正しそうに聞こえます。混乱しますね。プログラミングを勉強しておけば、仕事に困らないのでしょうか、それとも困るのでしょうか。
この二つの主張、実は「どちらの言い分も正しい」のです。ではなぜ矛盾しているように聞こえるのかというと、「プログラミングを使った仕事」を十把一絡げにして考えていたからです。
「プログラミングを使った仕事」の中には、生涯仕事に困らないようなクリエイティビティの高いプログラミングの仕事もあれば、誰にでも出来る専門性の低いプログラミングの仕事や、自動化AIに代替されてしまうようなプログラミングの仕事もあるのです。
もしあなたが「子供にプログラミングを学ばせたい」と考えている保護者や、授業でプログラミングを扱うかもしれない教員でしたら、「将来有望なプログラミングの仕事」と「価値が下がっていくプログラミングの仕事」の見分け方を知っておいた方が良いでしょう。(そしてこの目利きには、新しい時代の社会、つまり脱工業化社会についての理解が力になります。)
そのステップとして、まずは「誰にでも出来る専門性の低いプログラミングの仕事」について次回は考えていきたいと思います。
One comment
Pingback: プログラミング教育と脱工業化社会(10)誰にでも出来るプログラミングの仕事 | 福原将之の科学カフェ