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プログラミング教育と脱工業化社会(7)子供のポテンシャルと教員の裁量

(承前)前回の続きです。プログラミング教育が必修化された背景には、第4次産業革命とIT人材不足があります。そのような時代背景を踏まえて、文部科学省の考える「プログラミング教育の”Know Why(なぜプログラミング教育をするのか)”」と「プログラミング的思考」について紹介しました。しかしながら、文部科学省の進めているプログラミング教育必修化は、 プログラミングは1日1コマ分程度の頻度で、パソコン・タブレットは3クラスに1クラス分程度の配備、必要な時に「1人1台環境」が用意できればOKという想定なのです。


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AI世代の子供たちのポテンシャル

文部科学省の示す必修化のポイント想定環境を紹介してきましたが、AI世代の子供たちのポテンシャルをよく知っている保護者や先生からすると、学校のプログラミング教育はなまぬるいと感じたのではないでしょうか。実際、今の小学生のプログラミングに適応する力は素晴らしいものがあります。最近では、オンラインで知り合った小学生・中学生がマインクラフトでバーチャル卒業式を行ったことは大きな話題になりましたね。

また、台湾の事例ですが、新型コロナと戦うロボット(消毒液を出すロボット)を小学生がレゴで制作したニュースもあります。このようなAI世代の子供たちに、小学校では正三角形を描くためのプログラミングを教えるのです。パソコン・タブレットは3クラスに1クラス分程度の配備なので、授業以外の時間でICTを自由に使える機会はほとんど無いでしょう。学習指導要領が規定するプログラミング教育必修化は、実はこの”程度”なのです。

学習指導要領は”程度”よりも”方向性”

しかしながら、学習指導要領が”程度”の問題としてハイレベルでないのは当然なのです。なぜなら、学習指導要領は日本の全国民が学ぶべき内容を規定するものだからです。おのずと学習指導要領の”程度”は、「最低限学ぶべき内容」の水準にせざるをえないのです。仮にハイレベルを目指してプログラミング教育の頻度を増やそうと思っても、そのためには全ての学校現場でそれを可能にするICT環境の設備投資をしなければなりません。そしてそれは現状不可能だからです。

余談ですが、現状は「3人に1台コンピュータ」ですが、文部科学省が進めているGIGAスクール構想(補助金)では「1人1台コンピュータ」の学習環境の実現を目指しています。こちらがもし実現されれば、次の学習指導要領の改訂ではプログラミング教育の扱いも大きく変わると期待できます。(まぁ、次の改訂は10年後ですが。)

さて、そんなわけで学習指導要領に示されている”程度”は、”最低限の内容”なのだと理解しておきましょう。むしろ学習指導要領で重要なのは、”程度”よりも”方向性”なのです。”方向性”とは、時代の方向性、つまり”Know Why(なぜそれをするのか)”の本質です。日本の社会の方向性でもあります。その方向性に進まなければ、目の前の子供たちが不幸になる、そういった類のものです。”方向性”は教育にとって非常に重要です。

プログラミング教育は教員の裁量が重要

学習指導要領の”程度”の問題も、実は大きな問題ではありません。学習指導要領の大原則として、定められている内容については必ず授業で扱わなければなりません。そして学習指導要領の記述に反することしてはいけません。しかし、その記述に反してさえいなければ、学習指導要領に書かれていない内容を教えても大丈夫なのです。これが、学習内容に関する「教員の裁量」になります。

つまり、教員の裁量によってプログラミング教育はいかようにも出来るということです。AI世代の子供たちのポテンシャルをフルに伸ばすような授業も、教員の裁量によって可能なのです。プログラミング教育必修化にあたり、今後は各学校がどのようなプログラミング教育を実践するかをみれば、学校のスタンスが推して知れます。学校は必修化の波に流されるのではなく、時代の流れと”Know Why”をよく理解した上で、プログラミング教育に取り組むことをお勧めします。

次回はIT人材不足の観点から文部科学省の思惑について考察していきます。(続く)


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