(承前)大事なポイントは、時代の流れが「脱工業化社会の考え方」に向いているということです。日本の人口は年々減少し、2060年には生産年齢人口は今の60%にまで落ちる見通しです。工業化社会のビジネスモデルでは、人件費の安い新興国や開発途上国との競争に絶対に勝てません。日本が生き残るには脱工業化社会へ移行しなければならないのです。日本の子供たちに将来貧しい生活をさせたくないのであれば、脱工業化社会への移行は必須だと思っています。
ここまで読まれた方の中には「日本はもう脱工業化社会に移行できているんじゃない?」と感じた人がいるかもしれません。確かに「工場モデルの考え方」なんて聞くと古臭いので、こう感じることは当然だと思います。でも実は、「工業化社会の考え方」は私たちの認識以上に社会に深く根付いているのです。
日本の高度成長の功罪
それでは、日本の社会に「工業化社会の考え方」が深く根付いたきっかけをみていきましょう。立命館アジア太平洋大学の出口治明学長によると、戦後日本は次の3つの条件のおかげで高度経済成長を迎えることができたと言います。
- 冷戦のため、アメリカのサポートを受けることができた
- アメリカの製造業の工場モデルを手本にした
- 日本の人口が増加していた
工場モデルは長時間労働によって利益を生み出すビジネスモデルですので、必然的に体力が勝る男性が労働現場で求められるようになります。そうなると、女性は家庭に入って家事や育児に専念した方が社会全体としては効率的になります。そこで当時の日本政府は、配偶者控除や第3号被保険者などの仕組みを整えて、専業主婦にインセンティブを与えることにしました。加えて、寿退社や三歳児神話という虚構をでっちあげて、慣習的にも性分業が進むようにしたわけです。
これらの「工業化社会の考え方」は、当時の時代にマッチしていたことでしょう。日本は高度経済成長して、とても裕福な国へとなりました。
時代は変わり、2020年。「朝から晩まで働ける」だとか「性分業を推奨」だとかは、時代にそぐわなくなっています。働き方改革や女性の社会進出などに代表されるように、いま社会で叫ばれている課題の多くは、「工業化社会考え方」VS「脱工業化社会の考え方」という構図で捉えなおすことができます。時代は、社会は、脱工業化社会へ移行しようとしているのです。
学校制度は工業化社会の考え方がベース
もう一つ、「工業化社会の考え方」が私たちの生活に根付いている例を挙げてみましょう。それは学校制度です。実は私たちの学校制度は、工業化社会の考え方をベースに作られているのです。
具体的にみていきましょう。学校指導要領によって学ぶべき内容は規格化されています。中学校以上の教師は専門教科を持っており、授業は分業化されています。時間割によって学校全体の始業時間・終業時間が決められており、同時化されています。少子化によって小規模の効率学校は合併(集中化・極大化)されています。最後に、学校は文部科学省や都道府県教育委員会による中央集権で統制されています。いかがでしょうか。
繰り返しになりますが、「工業化社会の考え方」は間違っていて「脱工業化社会の考え方」が正しい、ということではありません。その時代にマッチする考え方と、その時代にマッチしない考え方があるだけです。そして残念ながら、今の学校制度の大部分は時代にマッチしなくなっているのです。
それでは、これからの時代にマッチする教育とは一体どんな教育なのでしょうか。これを考えるためにも、まずは「脱工業化社会がどのような社会なのか」を次の記事で見ていきましょう。(続く)
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