(承前)前回は学習指導要領における教員の裁量について見てきました。教員が裁量権を放棄しなければ、工業化社会の学校においても個別最適化した学習は可能であることが分かりました。そこで今回は「教員の裁量」から一歩踏み込んで、「学校の裁量」について考えていきたいと思います。
「教育法規に書かれていないこと」は変えられる
刺激的な見出しを付けましたが、文字通りの意味です。教育基本法や学校教育法などの教育法規に書かれていない内容については、学校に裁量があるのです。
大きな話題になったのでご存知の方も多いと思いますが、東京都の千代田区立麹町中学校が行った改良がこれに該当します。麹町中学校の工藤校長は、宿題・定期テスト・固定担任制・無意味な校則を廃止しました。なぜこのような改良を行えたかというと、宿題・定期テスト・固定担任制・校則は、教育法規で規定されていないからです。教育法規で規定されていないことは、校長の一存で決められるのです。
慌てて補足しますと、ここでお伝えしたいのは「宿題・定期テスト・固定担任制・無意味な校則等を廃止しましょう」ということではありません。お伝えしたかったことは、「何が変えられて何が変えられないかを知るためには、教育法規を読む必要がある」ということです。
「Society5.0は脱工業化社会(3)」でも書いたように、今の学校制度は工業化社会の考え方をベースに作られてます。この制限下において、子供たちの未来を考えた教育、個別最適化の教育を行うには、教育法規の理解が不可欠なのです。
「教育法規に書かれていること」で変えられるもの
さらに一歩踏み込んで、「教育法規に規定されている内容」についても、変えられるものがないか見ていきたいと思います。それは、教育法規のクラス編成と運用についてです。上越教育大学教職大学院の西川純教授は著書で次のように述べています。(該当する教育法規の詳細については書籍をご覧ください。)
(前略)それらをまとめると以下を制限する国の法はないのです。
1. 2年1組の担任(教科担任も含む)Aと2年2組の担任Bが合同で授業をする。(また、それ以上の同一学年のクラス合同でする)
2. 1年1組の担任Aと2年2組の担任Bが合同で授業をする。(また、それ以上の異学年のクラス合同でする)(ただし、各学年の学習内容に基づく授業をする)
3. 一人の教師が、同一学年の複数のクラスを同時に授業する。
4. 一人の教師が、異なった学年の複数のクラスを同時に授業する。
「人生100年時代を生き抜く子を育てる!個別最適化の教育 [ 西川純 ]」より引用
既にプロジェクト型学習(PBL)や探求学習に取り組んでいる教員の方々はお気づきだと思いますが、上記のようなクラス編成と運用方法は、個別最適化学習であるPBLや探求学習と相性が良いのです。実際、学校全体で個別最適化された教育に取り組んでいる学校では、これまでにないクラス編成と運用方法を検討し始めています。学校レベルで個別最適化の教育に取り組みたいと思っている方がいましたら、ぜひ参考にしてみてください。
さて、ここまで「学習指導要領による制限と裁量」について見てきました。実は、学習指導要領の「学習時間の制限」は、一部の学校で例外とも言える規則が存在します。次回は、「通信制高校における特例」について紹介したいと思います。