プログラミング教育と脱工業化社会(6)学習指導要領の性質と学校の現状

(承前)前回の続きです。プログラミング教育が必修化された背景には、第4次産業革命とIT人材不足があります。そのような時代背景を踏まえて、文部科学省の考える「プログラミング教育の”Know Why(なぜプログラミング教育をするのか)”」と「プログラミング的思考」について紹介しました。そこで今回からは、文部科学省の政策の裏にある本音について考察していきたいと思います。文部科学省の本音を知るためには、まず学習指導要領の性質について知っておく必要があります。


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学習指導要領の性質

そもそも学習指導要領は、日本の全国民が学ぶべき内容を規定するものです。言い換えれば、日本全国の学校にそれを学ぶ環境がなければ、学習指導要領には書けないのです。

理科の実験を例にすると分かりやすいでしょう。学習指導要領の改訂で理科に新しい実験を追加したいとします。そのために文部科学省は、日本全国の学校を調べ、新しい実験をするための実験器具が学校現場に揃っているか確認をします。もし十分な器具が揃っていなければ、補充のための予算を獲得してきて、設備の補助制度を用意する必要があるのです。

学習指導要領の改訂はこのように行われています。当然、今回の学習指導要領改訂によるプログラミング教育必修化においても、文部科学省は日本全国の学校のICT環境の整備状況を調査しているのです。

学校のICT環境整備の現状

日本全国の学校のICT環境の整備状況を把握するために、文部科学省は毎年「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」を行っています。最新の調査結果は平成30年度のもので、例えば次のようなデータを見ることができます。

さて、プログラミング教育が含まれた新しい学習指導要領は平成29年3月に公示されましたので、この頃の文部科学省のICT環境調査のページを開いてみましょう。すると、(別紙)平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針について  (PDF:143KB)というリンクが見つかります。この文書を読んでみると、文部科学省がどういうICT環境を想定して学習指導要領を作っているのかが読み取れます。重要箇所を以下に引用しておきます。

3 学習者用コンピュータ(児童生徒用)

(1) 設置の考え方

1. 各クラスで1日1コマ分程度を目安とした学習者用コンピュータの活用が保障されるよう,小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校及び特別支援学校において3クラスに1クラス分程度の配備(授業展開に応じて必要な時に「1人1台環境」を可能とする環境の実現)(※)。

※最終的には「1人1台専用」が望ましいが,当面,全国的な学習者用コンピュータの配備状況等も踏まえ,各クラスで1日1コマ分程度を目安とした学習者用コ ンピュータの活用が保障されるよう,3クラスに1クラス分程度の学習者用コンピュータの配置を想定することが適当である。

なお,各学校において,学習者用コンピュータを,どの学年にどの程度配分し活用するかは,各教育委員会・学校によって適切に判断すべきものと考えられる。

つまり、文部科学省の進めているプログラミング教育必修化は、 プログラミングは1日1コマ分程度の頻度で、パソコン・タブレットは3クラスに1クラス分程度の配備で、必要な時に「1人1台環境」が用意できればOKという想定なのです。(続く)