Home » 教育者向けの記事 » AIの記事 » 文部科学省による小中高の生成AIガイドラインのポイント

文部科学省による小中高の生成AIガイドラインのポイント

昨日2023年7月4日、文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しました。この生成AIガイドラインは法的には強制力を持つものではありませんが、学校関係者が今現在、生成AIの適用を判断する際に重要な参考資料となります。特に学校の運営者や教育リーダーの方々には、確実に目を通すことを強く推奨します。今回、この新たなガイドラインの主要な要点を整理し、わかりやすく解説しました。是非参考にしてください。


【スポンサードリンク】

ガイドラインの位置付けと概要

文部科学省の公表したガイドラインはこちらからダウンロードできます。

https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf

初めに、今回のガイドラインの位置付けついて解説します。このガイドラインは法的な強制力は持ち合わせておらず、教育委員会や私立学校が現時点でのAI活用の適否を判断する際の参考資料として、文部科学省が提供しているものです。このガイドラインを叩き台にして、学校として生成AIとどのように向き合っていくか学内で議論することが重要です。

また、ガイドライン表紙の「Ver1.0 機動的な改訂を想定」という言葉からも理解できる通り、AIの普及・発展と共にガイドラインも更新されます。特に注目すべきは「広島AIプロセス」に関連し、年内には著作権保護や偽情報対策等を含んだG7の共通見解がまとめられる予定です。この動向に伴い、ガイドラインの改訂が行われる可能性が高いです。これらの観点を把握しておきましょう。

今回のガイドラインのアウトライン(目次)は以下の通りです。

  1. 本ガイドラインの位置づけ
  2. 生成AIの概要
  3. 生成AIの教育利用の方向性
    1. 基本的な考え方
    2. 生成AI活用の適否に関する暫定的な考え方
    3. 「情報活用能力」の育成強化
    4. パイロット的な取組
    5. 生成AIの校務での活用
  4. その他の重要な留意点
    1. 個人情報やプライバシーに関する情報の保護の観点
    2. 教育情報セキュリティの観点
    3. 著作権保護の観点
  • (参考)各学校で生成AIを利用する際のチェックリスト、主な対話型生成AIの概要、今後の国の取組の方向性
  • (別添資料)検討経緯、学習指導要領における情報活用能力の記載、G7における合意文書、生成AIに関する政府方針、ヒアリングを実施した有識者一覧、 中央教育審議会初等中等教育分科会デジタル学習基盤特別委員会委員名簿

それでは、ガイドライン2章より重要なポイントを解説します。

ガイドラインのポイント解説

AIの仕組み・弱点・対策を把握すること

ガイドライン2章「生成AIの概要」のポイントは、生成AIの仕組みと弱点、その対策を理解することです。

生成AIの仕組みは、「ある単語や文章の次に来る単語や文章を推測し、『統計的にそれらしい応答』を生成するもの」です。例えば「むかしむかし」とAIに質問すると、それらしい応答として「あるところにお爺さんとお婆さんが・・」と答えることです。これを大変高度に行なっているのが生成AIなのです。

ここで重要なポイントは、生成AIには自我や知性はなく、応答の真偽は吟味していないという点です。これがAIの弱点になります。つまり、「回答は誤りを含む可能性が常にあり、時には、事実と全く異なる内容や、文脈と無関係な内容などが出力されることもある」ということです。

これに対応するために、私たちは「対象分野に関する一定の知識や自分なりの問題意識とともに、真偽を判断する能力が必要」となります。そして生成AIの回答は「参考の一つに過ぎない」ことを十分に認識し、「最後は自分で判断する」という基本姿勢が重要です。

AI時代に必要な資質・能力の向上を図る

ガイドライン3章「生成AIの教育利用の方向性」(1)基本的な考え方のポイントは、AI時代に必要な資質・能力の向上を図ることです。これは生徒だけに限らず、教師のAIリテラシー向上も含まれます。

生成AIの教育利用については様々な懸念事項がありますが、「児童生徒の発達の段階を十分に考慮」しつつ、AIを教育に活用していくことが重要だというスタンスをガイドラインは示しています。

その際に注意すべき事項として、以下のことが列挙されています。

  • 利用規約の遵守(年齢制限や保護者同意)
  • 事前に生成AIの性質やメリット・デメリット、AIには自我や人格がないこと、生成AIに全てを委ねるのではなく自己の判断や考えが重要であることを十分に理解させること
  • 発達の段階や子供の実態を踏まえること
  • 学習指導要領に示す資質・能力の育成を阻害しないか
  • 教育活動の目的を達成する観点で効果的か否か
  • 教師の側にも一定のAIリテラシーが必要
  • 学ぶことの意義についての理解を深める指導が重要

そして「限定的な活用から始めること」、「情報活用能力の教育を充実させること」、「教師のAI活用を推進すること」を提案しています。

生成AI活用の適否の具体例

ガイドライン3章「生成AIの教育利用の方向性」(2)生成AI活用の適否に関する暫定的な考え方では、生成AI活用が適切・不適切な具体例が示されています。

外部のコンクールへの応募時の留意点

ガイドラインの「長期休業中の課題等について(文章作成に関わるもの)」では、外部のコンクールへの応募させる際の留意点が整理されています。AIの利用を想定していないコンクールでは不適切行為にあたる可能性があること、ファクトチェックの重要性、生成AIの回答をたたき台として活用することの推奨などが挙げられています。

情報活用能力、特にファクトチェックの育成強化

ガイドライン3章「生成AIの教育利用の方向性」(3)「情報活用能力」の育成強化では、GIGAスクール構想の端末活用の加速と情報モラル教育の充実について触れられています。特に情報モラル教育については、発達の段階に応じて実施すること情報の真偽を確かめるファクトチェックを意識的に教えることが重要とされています。

生成AIを本格活用するための4段階(一部の学校向け)

ガイドライン3章「生成AIの教育利用の方向性」(4)パイロット的な取組では、生成AIを活用するためのステップとして4段階が紹介されています。①生成AI自体を学ぶ段階、②使い方を学ぶ段階、③各教科等の学びにおいて積極的に用いる段階、そして④日常使いする段階です。あくまでもパイロット的取組としての紹介となっていますが、生成AIを本格的に活用したい学校にとって良い指針と言えるでしょう。

生成AIを活用した教員の働き方改革

ガイドライン3章「生成AIの教育利用の方向性」(5)生成AIの校務での活用では、生成AIを活用した働き方改革について言及されています。生成AIを授業で活用したり、AIリテラシーを教えたりするには、先生自身がAIについて慣れ親しむ必要があります。生成AIで叩き台をつくるなど、積極的に活用していきましょう。

個人情報やプライバシーに関する情報、機密情報を入力しない

ガイドライン4章(1)と(2)では、個人情報やプライバシー、情報セキュリティに関する注意事項が述べられています。個人情報やプライバシー関する情報、機密情報を入力しないこと。またAIが生成した回答に個人情報やプライバシーに関する情報が含まれている場合、その回答を利用しないことが重要です。先生自身はもちろんのこと、生徒にも周知させましょう。

著作権に関する留意点

ガイドライン4章(3)には、著作権保護の観点から留意すべき事項が紹介されています。重要なポイントは、①AIによって生成された文章等の著作権はAIに指示を出した人に帰属すること、②AIの生成物が既存の著作物と類似していた場合は著作権違反になり得ること、③学校の授業では既存の著作物と類似していても活用可能なこと、の3点です。特に②の観点は重要で、ホームページやコンテストなど外部に生成物を掲載する際は、著作権違反をしていないかしっかりチェックしましょう。

生成AIを利用する際のチェックリスト

ガイドラインの観点が整理されているチェックリストですので、活用していきましょう。

今後に向けて学校がとるべき施策

生成AIガイドラインの主要な要点について解説いたしましたが、いかがでしたでしょうか。ガイドラインに記載されたテーマは、管理職の先生だけでなく全ての教職員が理解しておくべき重要な内容となっています。ここから先、学校が取るべき行動は主に二つあります。

まず一つ目は、生成AIに関する研修の実施です。文部科学省がガイドラインを公表したとはいえ、具体的な学校での対応策は各学校自身が策定するべきです。そのため、教員が自身でAIの知識を深め、実際に使用する経験を持つことが重要となります。私が支援している学校では、既に4月上旬にChatGPTに関する研修を実施しています。これから夏休みに突入しますので、このタイミングで生成AIの研修を設けるのはいかがでしょうか。

そして、二つ目に学校が実施すべき行動は、学校独自の生成AIガイドラインの作成です。徳島県の神山まるごと高専の例を参考に考えてみてください。同校では2023年5月にChatGPTを活用するためのガイドラインを提示し、全学生・教員に有償ライセンスを提供しました。ICT利用ガイドラインやルール作りと同じ要領で、AI活用についてのガイドラインも討議し、作成することを推奨します。AI教育の幕開けです。