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【本紹介】映画でストーリーテリングを学ぶために読んでおきたい本

先日、子供たちのポートフォリオ作成には「自分の物語を説明できる能力」、つまりストーリーテリングが大事だとブログで書きました。ストーリーテリングはどのように鍛えることができるでしょうか。小説を読む、TEDを聞く、ドラマを観るなど様々な方法がありますが、個人的にお勧めなのが「映画を観る」ことです。映画は約2時間という決まった尺の中で、大衆を惹きつけるための工夫が凝らしてあります。非常に勉強になる教材です。

しかし予備知識なしに映画を観ても「楽しかったね」「面白かったね」で終わります。それはそれで良いのですが、もし映画でストーリーテリングを学びたいのであれば、「SAVE THE CATの法則〜本当に売れる脚本術」を読むことをお勧めします。この本を読む前と後では、映画の鑑賞の仕方が変わる良書だと思います。


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書籍紹介

目次は次の通りです。

  1. どんな映画なの?
  2. 同じものだけど…ちがった奴をくれ!
  3. ストーリーの主人公は…。
  4. さあ、分解だ!
  5. 完璧なボードを作る
  6. 脚本を動かす黄金のルール
  7. この映画のどこがまずいのか?
  8. 最後のフェード・イン

この本は「脚本家が脚本家のために書いた本」なのですが、素人が読んでも理解できますし、「なるほど!」と思うことが大量に詰まっている書籍です。

第二章の「同じものだけど…ちがった奴をくれ!」では、映画の分類について紹介しています。ジャンルといってもSFや恋愛、コメディー、サスペンスなどではなく、映画のストーリーの本質を踏まえた上での分類です。例えばスターウォーズシリーズは『金の羊毛』、つまり「何かを求めて旅に出るストーリー」と分類されます。タイタニックは『難題に直面した平凡な奴』という分類で、なるほどと思います。

第四章の「さあ、分解だ!」では、映画の構成を著者独自のテンプレートで分解する手法が紹介されています。著者のテンプレートでは映画を15のシーンに分解し、そのシーンの「構成上の役割」について丁寧に教えてくれます。これが大変勉強になりました。この知識をもっていると、初めての映画でも「全体の構成」を感じながら1つ1つのシーンを観賞することができるようになります。

第五章の「完璧なボードを作る」を読むと、脚本家である著者が「普段どのようにして脚本をクリエイトしているか」が分かります。著者はホワイトボードのような「ボード」を使って創造的作業を行っているのですが、この手法は講演の準備や推薦書・探究論文作成などにも参考になると思います。

そして目玉の第六章では、著者がみつけた「脚本を動かす黄金のルール」が紹介されています。本のタイトル「SAVE THE CAT(危機一髪、ネコを救え!)」もそのルールの1つです。紹介されている8つのルールはどれも面白かったのですが、特に感慨を受けたのが『E.T.』のエピソードです。

ご存知のとおり、『E.T.』(82)にはテレビのレポーターなんかか出てこない。『E.T.』は地球外生命体が地球にやってきて、「Nuclear Family」と似たような家族とともに暮らす話だ。もちろん状況としてはマスコミが押しかけてもおかしくない。本物のエイリアンがいるんだから!けれど、脚本家のメリッサ、マシスンと話し合ってみて、スピルバーグが気がづいたと言う。 そういうシーンを入れると、映画全体の前提が崩れてしまうと。『E.T.』の存在が、家族や隣近所、そして観客の間だけの秘密になっているからこそ、映画全体がリアルに感じられるのだ。もしマスコミを入れてしまったら、第4の壁を壊す(観客と舞台を分けるために、劇場の額縁舞台の下に垂らされた薄い幕を破ること)ことになり、全てが崩壊してしまう。マスコミが入れば、夢の世界は壊れてしまうのだ。

(中略)

『E.T.』の例でもわかるように、マスコミが入ると<私たちだけの秘密>はもう秘密じゃなくなってしまう。そうなると観客は、もはや自分がストーリーの一部だと感じられなくなってしまうのだ。

スピルバーグは本当にすごい!私も小学生の頃に『E.T.』を観ましたが、映画を観終わった後に真っ先に考えたのが自分たちの家にもE.T.がやってこないかな」でした。映画を観終わっても、夢の世界は続いていたのです。もし『E.T.』にマスコミが登場していたら、たぶん『E.T.』を待ち望むことはなかったと思います。

この本では、『E.T.』のように様々な映画のストーリーの事例が随所に散りばめられています。映画をたくさん読んでいる人はそれだけで楽しめますし、また知らない映画についても「今度観てみたいな」という気持ちになります。

「創る側の立場」から映画を観賞してみたい人にお勧めの本です。お盆休みの映画のお供に、よかったらどうぞ。