ミネルバ大学のオンライン授業システムを既存のサービスで再現できないか考える

みなさんはミネルバ大学という名前を聞いたことがありますか。ミネルバ大学とは2014年に新しく作られた大学で、今では「ハーバード以上の世界最難関大学」と言われることもあります。ミネルバ大学のシステムは非常に特殊で、キャンパスを持たずに7都市を移動しながら学ぶ、全寮制の大学なのです。そしてミネルバ大学の普段の授業は、実は全てオンラインで実施しています。

ミネルバ大学のオンライン授業は、18人以下のセミナー形式で行われており、いわゆるアクティブ・ラーニング型授業です。このミネルバ大学の授業は、オンライン授業のひとつの完成形だと私は考えています。そこで今日は、ミネルバ大学のオンライン授業を支えているテクノロジー「アクティブ・ラーニング・フォーラム」を、既存のサービスの組み合わせで再現できないか考えてみたいと思います。


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ミネルバ大学について

まず最初に、ミネルバ大学について詳しく知りたい人は、こちらの書籍がおすすめです。

この本にはオンライン授業システムの他にも、大学創立の経緯やミネルバ大学の教育の詳細、さらには今後の課題や大学の可能性についても説明されています。ミネルバ大学について書かれている数少ない日本語の書籍ですので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

オンライン授業システム「アクティブ・ラーニング・フォーラム」

こちらがミネルバ大学による「アクティブ・ラーニング・フォーラム」の説明動画です。

この動画や先ほどの書籍で紹介されている「アクティブ・ラーニング・フォーラム」の機能をみながら、私たちが「既存のサービスの組み合わせ」で同じ機能を再現できないか考えてみたいと思います。

まずは基本となるビデオ会議システムについて。

特徴的なのは、授業に参加している全員の顔が見える点だ。従来の教室での授業のように、「2列目」は存在しない。

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ」より引用

いわゆる参加者のパネル表示機能ですね。この機能はいまや、多くのビデオ会議システムに実装されていでしょう。同様に、次の画面共有システムも当たり前の機能ですね。

次は投票機能です。

学生たちの投票結果は、リアルタイムで円グラフや棒グラフのように可視化され、授業に参加している全員に共有される。どの学生がどの立場を選択したのか全員が把握できる。

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ」より引用

一応、Zoomには投票機能が実装されていますが、誰がどこに投票したか分からないなど使い勝手はいまいちですので除外しましょう。ここはGoogleフォームやMicrosoftフォームズなどを使うことで、投票機能を再現するのが良さそうですね。上画像のように「どの学生がどの立場を選択したか一目で分かる」とまではいきませんが、実用性としては概ね問題ないでしょう。

次は学生の拡大表示機能です。

投票結果から学生同士のディベートが始まる:発言している学生や注目したい学生の画面を拡大表示することもできる

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ」より引用

これを再現することは難しそうですね。少なくともZoomでは1人を拡大表示する機能しかありません。

次は、ビデオ会議システム上でのアイコンを使った意思表示についてです。

これは、Zoomの「非言語的なフィードバック」機能を使えば再現できそうですね。

さて、次はいよいよブレイクアウトルーム機能です。

アクティブ・ラーニング・フォーラムでは、グループワークを指示した場合、各学生の画面は同じ主張を選んだクラスメイトだけが表示されるグループ作業画面に瞬時に移行するため、思考が途切れる時間がなく、集中力を維持し続けることができる。

移行後の画面には議論を深めるために、教員が予め用意した質問が表示される場合もあれば、ディスカッション用ワークシートが表示される場合もある。

また、オンラインならではの利点は、教員が複数のグループの進捗状況を、教室を歩き回りながら確認する必要は無い点だ。自分の席から、各グループの進捗状況を簡単に把握できるのだ。

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ」より引用

「アクティブ・ラーニング・フォーラム」のブレイクアウトルーム機能を完全に再現することは難しいですが、工夫をすることでそれに近づけることはできます。

まず、ビデオ会議システムはブレイクアウトルーム機能があるZoomを使いましょう。瞬時に「同じ主張を選んだクラスメイト」でグループ分けをすることはできませんが、生徒が自由にブレイクアウトルームを移動できる設定(共同ホスト機能)をすれば、ほぼタイムラグ無しでグループに分かれることは可能です。

ブレイクアウトルームに分かれた後の「教員が予め用意した質問」は、「全員宛のメッセージを送信」機能を使えばOKでしょう。ディスカッション用ワークシートは、GoogleドキュメントなりGoogleジャムボードなりを用意しておけば良いと思います。

グループの進捗状況の確認方法は、各グループが使用しているGoogleドキュメントやGoogleジャムボードなどを、教員も見れるように共有設定をしておけば良いでしょう。参加者の表情や発言を確認するためにはブレイクアウトルームに移動しないとだめですが、進捗確認だけならこのやり方で概ね問題ないと思います。

次は、生徒の発言時間を確認する機能です。

オンライン・プラットフォームだからこそ実現できることもある。

例えば、すべての学生になるべく均等な発言機会を与えることは、教室型の授業では、教授の記憶力に依存するところが大きい。しかし、アクティブ・ラーニング・フォーラムの発現時間を確認する機能を使えば、どの学生がどれだけ発言しているか瞬時に表示され、教授は誰に発言を流せば良いのか容易に把握できる。

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ」より引用

↑画面上部にある生徒一覧の色で、その生徒の発言時間を知ることができます。赤色の生徒は発言料が多く、緑色は発言量が少ないそうです。

この「アクティブ・ラーニング・フォーラム」の機能は、残念ながら既存のサービスの組み合わせで再現できませんでした。音声認識を使う方法も考えてみたのですが、リアルタイムで発言時間を表示することは既存のサービスではまだ難しいと思います。

そして最後は、録画された授業を教員が見返して「学生の技能習熟度を採点」する機能です。

また、授業後にすべての学生の発言を確認し、その学生の技能習熟度をルブリックを用いて採点し、コメントともにフィードバックを行う。こうした密度の高い学生のフォローアップは授業を録画できるオフライン形式だからこそ実現できる。

こうした教授からのフィードバックは前授業終了後に行われ、学生は自分の弱点や強みを把握しながら、次回の授業に臨むことが可能になる。

世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ」より引用

Zoomなどのビデオ会議システムには録画機能があるため、授業の録画を見返すことは問題ありません。課題は生徒のルーブリック評価とフィードバックですね。Googleクラスルームなどを使えば可能ですが、「アクティブ・ラーニング・フォーラム」のようにシステム化されていないので、同じことをしようとしたら時間効率が悪いでしょう。

まとめ

「アクティブ・ラーニング・フォーラム」には他にも機能があると思いますが、代表的な機能は上記の通りです。全ての機能ではありませんが、既存のサービスを組み合わせることで似たような効果を再現することはできると思います。

ミネルバ大学のオンライン授業は、対話を中心としたアクティブ・ラーニング型授業のひとつの完成形とも言えます。この記事で紹介したツールの組み合わせを使うことで、ミネルバ大学の良いところを取り入れることができるでしょう。対話を中心としたオンライン授業を目指している先生は、ぜひ試してみてください。

余談ですが、既存ツールで再現できなかった「生徒の発言時間を確認する機能」は、教育現場だけでなくビジネスのオンライン会議においても有用な機能だと思います。ニーズはあると思います。Zoom・Google Meet・Microsoft Teams のいずれかで、この機能が新しく追加開発されることを期待しています。