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香川県ゲーム規制条例を訴訟するために現役高校生がクラウドファンディングを開始

昨日Facebookページでもシェアしましたが、アメリカで「ADHDの治療」を目的としたゲームが初めて承認されました。ソフトウエアを治療に利用するデジタル療法です。子供のゲームに関する話題は依存症などのネガティヴな話が多いので、こういう取り組みやニュースが増えていくのは嬉しいですね。

ゲームの依存症といえば、今年3月に香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が成立して話題になりました。条例成立後、香川県はどうなっているのか気になったので調べていたところ、非常に興味深いことになっていました。


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香川県ネット・ゲーム依存症対策条例

こちらが話題の香川県ゲーム規制条例です。この条例は、香川県議会が1月10日に提出して3月18日に可決・成立、そして4月1日に施行されました。条例の具体的な内容は次の通りです。

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例

同条例は18歳未満を対象として、ゲームの利用時間を1日60分、休日は90分までとし、スマートフォンは中学生以下が21時まで、それ以外は22時までとする目安を設け、家庭内でのルール作りを促している。なお、学習目的での利用についてはその限りではなく、条例に違反しても罰則などの規定はないとしている。そのため、条例の実効性は低いが、「家庭への介入」「学業との両立は可能」等と反発もあり、条例での規制についても専門家の意見が分かれている。

第2条において、「ネット・ゲーム」を「インターネット及びコンピュータゲームをいう」と定義しているため、家庭で遊べるオンラインゲームやコンシューマーゲーム(テレビゲーム・携帯型ゲーム)のみに限らず、アミューズメント施設等に設置されているアーケードゲームも規制対象に入る。

Wikipedia「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」より引用

この条例に対するパブリックコメント(意見公募)は、1月23日から2月6日までの15日間、香川県民を対象に行っています。そしてパプリックコメントの結果は、多くのメディアでは「県民の8割が賛成」と報道されたのです。パプリックコメントの内容は条例の成立に直接関係はありませんが、県民の指示を得たということで3月18日にゲーム規制条例は成立したのでした。(毎日新聞:香川のゲーム条例パブコメ、賛成8割超 成立の公算大きく

パプリックコメントに対する疑惑

しかし、「県民の8割が賛成」と報道されていたパプリックコメントに対して、捏造の疑惑が出てきたのです。

実際のところ、問題のパプリックコメントが本当に捏造されていたのかは分かりませんが、パプリックコメントの原本はこちらのサイトからダウンロードすることができます。

香川県弁護士会がゲーム規制条例の即時削除を要請

事件はまだ続きます。香川県弁護士会がゲーム規制条例の即時削除を求める声明を公表したのです。(5月25日)

「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」に対する会長声明(R02/05/25)

しかしながら、以下述べるように、本条例は、その立法事実を欠くものであることに加え、インターネット及びコンピュータゲームの有用性を十分に考慮したものとはいえない。

特に、本条例18条2項は、憲法13条が定める子ども及びその保護者の自己決定権を侵害するおそれがあり、教育の内容及び方法に対する公権力の介入は抑制的であるべきという憲法上の要請に違反し、さらに児童の権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」という)に基づき、我が国においても最大限尊重されるべき「児童が文化的及び芸術的な生活に十分に参加する権利」及び「子どもが意見を聴取される権利」を損なうものとして、到底、看過できない。

会長声明の「第2 声明の理由. 1 総論」より引用

これに対して香川県議会は、憲法上の要請に違反しているとは考えられず、条例の廃止や削除をする理由がないという見解を示しています。(6月2日)

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例に対する香川県弁護士会長声明に対する見解

条例はゲーム依存症対策になるのか

ゲーム規制条例については私も思うところがあります。冒頭に紹介したような「ADHDの治療」を目的としたゲームの例もありますし、マインクラフトのように子供の創造力をのばすゲームもあります。私はゲーム規制条例については反対の立場です。

もちろん、子供たちのゲーム依存症(YouTube依存症も含む)については大きな課題だと感じています(仕事柄よく耳にしています)。でも、今回の香川県のネット・ゲーム依存症対策条例が、本当にゲーム依存症の効果的な対策になるのかというと、私は正直難しいと思っています。(実際、条例の効果が出ていないというデータもあるようですが、それは置いておきましょう。)

今回の一連の事件で考えていたことなのですが、どうも大人だけで課題を解決しようとすると、「規制条例」とか「罰則」とか、そういう方向に進みがちだと感じました。もっと子供たちと一緒に課題を考えられたら、本質的な解決につながるんじゃないかと期待しています。

例えば、工学院大学附属中学校の生徒たちがいます。中学2年生による「工学院Juniorチーム」は、『Asian Student Leadership Conference(ASLC)2019』に参加し、見事金賞を受賞したのです。(ASLC 2019とは、ASEAN諸国の若者を対象に、アクティビティーや議論を重ねながらアジア諸国の課題解決に向けた起業案を提案・発表するプログラムです。)

ASEAN諸国の若者が集うASLC2019にて、金賞を受賞した工学院大学附属中学校の生徒たち。写真は同校のホームページより引用。

ASLC 2019で彼女たちは「インターネット中毒」というテーマを選び、その解決策として「スマホ使いすぎ防止の工夫が施されたアプリ『My Pet』」を提案しました。「My Pet」はスマホの起動時間と連動するよう設計されており、スマホを使っていない時間が長いほどアプリ内のバーチャルペットが元気に成長し、反対にスマホを長時間使っているとバーチャルペットが病気になったり衰弱したりするそうです。

彼女たちのアイディアには、インターネット中毒から脱するためのインセンティブがしっかりとデザインされており、初めて聞いたときはとても感心しました。これを中学2年生がやってのける時代なのです。ゲーム規制条例よりも成果が期待できそうに思えませんか?

Z世代の子供たちと一緒に、大事な社会問題を考えていきたいですね。

高校生がクラウドファンディングで訴訟準備

そんなことを考えていたら、一昨日すごいニュースが飛び込んできました。香川県の現役高校生が、香川県ゲーム条例が憲法違反であることの確認と、議員の立法不作為責任を求める国家賠償請求訴訟を今年の9月に起こすというのです。

彼は今年1月の時点で署名活動も行っており、595名分の署名を提出したそうです。裁判のための論点もきちんと整理しており、既に担当弁護士も決まっています。(参考:戦後10例目の違憲判決をたった一人で勝ち取った異才、作花知志弁護士の「思考法」)

今回、訴訟の費用をクラウドファンディング で募集しているのですが、募集を開始してわずか24時間で503,000円が集まっています。この記事を書いている間にも支援金額がどんどん増えており、注目の高さが伺えますね。既に220人以上が支援をしており、集まった金額は80万円を超えました。

当事者である高校生が自らの意志で声を上げるのであれば、私も応援してあげたいと思います。クラウドファンディングの支援は1口 1,000円からですので、応援してあげても良いという方は寄付やシェアをお願いします。