先日、知り合いの先生がFacebookで「反論の技術」という書籍の内容をシェアされていました。例えば、
われわれは、議論の相手を「説得」しようとはしない。相手はただ「論破」するのみである。われわれが「説得」しようとするのは第三者である聴衆なのだ。p.95
相手の発言の背後に存在し、その発言を生み出したであろう価値判断は、当然のごとく反論の対象となる。と言うよりむしろ、それに確実に批判の矢を向けなければ、相手の議論に反論したことにはならないのだ。p.156
など、非常に興味をかきたてられる内容でしたので、私も読んでみることにしました。
1995年出版で著者の香西秀信氏も個性的なお人柄のため、正直好みは分かれると思いますが、「ディベート(議論)の授業」に取り組みたい先生は一読する価値があるでしょう。個人的には大変勉強になった一冊でした。
書籍紹介
目次は以下の通りです。
- 議論指導における反論の訓練の意義
- まず反論の訓練から始めよ
- 反論は議論の本質である
- 反論は真理を保証する
- 反論は立論を強化する
- 教師のための「反論」自修法
- 反論の手本は教師が示せ
- トピカの方法
- 反論の訓練
- 訓練を始める前に
- 基礎練習・型の習得(その一)
- 基礎練習・型の習得(その二)
- 相手の大前提を撃つ
- 訓練のための教材文と反論例
- あとがきにかえて ― 議論・この嫌なもの
第二章「教師のための「反論」自修法」とあるように、この本は忙しい教師のために反論の技術を伝授しますという趣旨で書かれています。第二章は教師自身の訓練方法が、第三章では生徒向けに授業を行う際のHow toが紹介されています。
この本は全体的に手厳しいのですが、的を得ている指摘がたくさんありました。
反論の技術を教える教師は、生徒が模倣するに値するような反論の見本を示すせる程度に、自らも反応の技術を持たなければならない。これは指導者として最低限の資格である。この程度のことができなくては「反論」の授業は必ず失敗する。例えば最近流行のディベート授業を見ると良い。手を出す教師は多いが、私の見聞した範囲では失敗例ばかりである。当然のことだろう。議論について何の訓練も受けたことのない教師が議論のやり方を教えているのであるから。今のディベート授業など、例えば英語を知らない教師が、英語学概論を何冊か読んで、英語の授業をやるようなものだ。失敗したからといって悩む方がどうかしているのである。
77ページより
最後に最も肝心でかつ当たり前なことに注意を促しておく。討論が効果を上げるのは、その参加者が討論の技術を身につけているときだけである。そして、最も大切な討論の技術とは、何よりもまず相手の主張に反論できる技術に他ならない。意見は互いに否定し合うことによって、より高次の意見に止揚する。これができなければ、いくら長時間討論させたところで、異なる意見がたくさん併存するだけだ。だから、討論授業を試みようとする教師が最初にやらなければならない事は、徹底した反論の訓練なのである。
40ページより
なぜなら、この「面白い」と言う要素が、「説得」において重要な役割を果たすからである。よく教科書の議論を扱った単元なので、「互いに相手を説得するための方法を工夫してみよう「などと書かれていることがあるが、これはとんでもない間違いである。われわれは、議論の相手を「説得」しようと言う頭などはしない。相手はただ「論破」するのみである。われわれが、「説得」しようとするのは第三者である聴衆なのだ。
95ページより
気になる「反論の技術」の訓練方法は、「自分が新聞や雑誌などで読んで面白いと思った反応を集める」というシンプルなものでした。
「こんな簡単な方法で本当に大丈夫?」と思うかもしれませんが、この本を一読するだけでも「議論」や「反論」に対しての感度が高まるので、面白い反論を収集するワークは一定の効果がありそうかなと個人的には思いました。(忙しい先生を配慮して日常的にできるワークを提案されているのだと思います。)
全体的に手厳しい内容が多いので正直好みは分かれると思いますが、「ディベート(議論)の授業」に取り組みたい先生は読んでみる価値があると思いますので、よかったら挑戦してみてください。
ちなみに私自身はとても面白かったので、同じ著者のこちらの書籍も読んでみようと思います。