Society5.0は脱工業化社会(9)

(承前)Society5.0は脱工業化社会(8)の続きです。社会には工業化社会、修正された工業化社会、真の脱工業化社会の3つのステージが存在します。その3つのステージをめぐり、あらゆる業界で「工業化社会に留まろうとする派」と「脱工業化社会を進めようとする派」の綱引きが発生しています。前回、教育業界における代表的な「綱引きのプレイヤー」を紹介しました。そこで今回は、彼らの思惑について考察していきたいと思います。


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プレイヤーの4つの勢力

「綱引きのプレイヤー」の思惑を知るには、彼らがどの勢力に属しているか考えることが大事です。上図のように、工業化社会の維持派には「今の社会における既得権益者の勢力」と「変化を嫌う勢力」、脱工業化社会の推進派には「『修正工業化社会』を目指す勢力」と「『真の脱工業化社会』を目指す勢力」がいます。それぞれの勢力について整理していきましょう。

1a) 今の社会における既得権益者の勢力

既得権益者の勢力に属するプレイヤーを探す方法は簡単です。今の社会における勝ち組を探せば良いのです。教育業界のプレイヤーで言うと、東大京大などの大学合格実績に優れた進学校がこの勢力に当てはまります。ただし、進学校が全て既得権益者の勢力というわけではありません。進学校の中にも脱工業化社会の推進派はいます。学校が発信している情報に注視すれば、この勢力に属している進学校かどうかは簡単に見分けられるでしょう。

1b) 変化を嫌う勢力

世の中の多くの組織は、この勢力に属するでしょう。教育業界のプレイヤーでは、公立中高一貫校などの一部を除いた公立学校がこの勢力に当てはまります。

その他にも教育業界では、進学校を目指して大学合格実績に力を入れている学校がたくさんあります。これらの学校は、工業化社会の枠組みの中で、工業化社会の価値観で努力をしていると言えます。もし世の中が脱工業会社会へ移ってしまったら、これまでの努力が無駄になる可能性が出てきます。そういう意味で、進学校を目指している学校も「変化を嫌う勢力」であると言えるでしょう。

2a)「修正工業化社会」を目指す勢力

「修正工業化社会」を目指す勢力と「真の工業化社会」を目指す勢力の見分け方は、とても難しいです。修正工業化社会は「真の工業化社会」に到達するプロセスであるため、外部からは両者とも修正工業化社会を目指している様に見えるからです。

確実な見分け方ではありませんが、私の考えを紹介しましょう。「もし世の中が修正工業化社会になったら」と「もし世の中が真の脱工業化社会になったら」を考えます。このとき、「修正工業化社会では得をするけど、真の脱工業化社会では相対的に損をする組織」は、「修正工業化社会」を目指す勢力の可能性が高いです。

教育業界の例で考えてみましょう。今、通信制高校が人気を博しています。これは、工業化社会である今の時代に「脱工業化社会の個別最適化教育」を受けられるからだと考えられます。もし世の中が修正工業化社会になれば、個別最適化された教育のニーズが高まり、通信制高校は今よりもシェアを伸ばせることでしょう。(他の学校が学習指導要領に縛られている間に、です。)

それでは、もし世の中が「真の脱工業化社会」になったらどうでしょうか。全ての学校で個別最適化された教育が展開され、その学校ならではの特色を打ち出していく学校も続々と登場するでしょう。通信制高校は損をする、とまではいきませんが、修正工業化社会時代に持っていた優位性は確実に失うでしょう。従って、通信制高校は「修正工業化社会」を目指す勢力だと私は考えています。

2b)「真の脱工業化社会」を目指す勢力

それに対して「真の脱工業化社会」を目指す勢力は、真の脱工業化社会でも修正工業化社会でも優位性を保持するでしょう。この勢力は、修正工業化社会のステージでは決して満足しません。世の中が真の脱工業化社会に移行するように、組織のミッションを掲げ、情報を世の中に発信し、具体的に行動します。

「真の脱工業化社会」を目指す学校の十分条件は、教育をアップデートし続けることです。「真の脱工業化社会」到達前にアップデートをやめることは、修正工業化社会に留まることを意味すると知っているからです。前回に紹介した「<私学の系譜>を継いでいる私立学校」がそうです。

昨年の12月15日、21世紀型教育カンファレンスにて工学院大学附属中学校・高等学校の平方校長がスピーチをされました。平方校長のスピーチは、21世紀型教育機構のコミュニティにグローバル教育4.0を提案する内容でした。21世紀型教育機構の学校はグローバル教育3.0に取り組んできましたが、それが完成間近であるこのタイミングで、次のアップデートした教育のビジョンを示したのです。外側からでも、本気で「真の脱工業化社会」を実現しようとしていることが分かると思います。

さて、ここまで教育業界の主なプレイヤーについて見てきました。しかし実は、まだブログで紹介していない重要なプレイヤーが存在します。そのプレイヤーは、もちろん「真の脱工業化社会」を目指す勢力です。次回、この論考の一旦の締め括りとして、このプレイヤーについて語りたいと思います。(続く)