ABLabの仲間たちと一緒に「宇宙飛行士選抜試験」を題材にした教育コンテンツを企画しています。そのため最近は宇宙飛行士に関する書籍をたくさん読んでいます。今日紹介するのは「宇宙飛行士に求められる資質」と「そのための採用基準」について詳しく書かれている本です。
宇宙飛行士選抜試験については、以前にブログでも紹介した「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」が宇宙界隈では一番有名です。ただし、こちらは選抜試験自体に焦点をあてた書籍なのに対して、今日紹介する本は「宇宙飛行士その採用方法」に焦点をあてています。「宇宙飛行士の資質ってなんだろう?」「どういう基準で採用するのかな?」そんな疑問に答えてくれる本です。
書籍紹介
目次は以下の通りです。
- 第1章 宇宙を「職場」にする生き方―宇宙飛行士の人生
- 宇宙という職場と、宇宙飛行士の採用
- 宇宙飛行士のキャリアパス
- 第2章 計算できない「心」をどう扱うか―宇宙の心理学
- 宇宙飛行士と心理学
- 国際宇宙ステーションの心理学
- 「宇宙開発会社」の心理学
- 第3章 宇宙飛行士の採用基準―「適格者」を選ぶ
- 宇宙飛行士の選び方
- 選抜基準のつくりかた
- 第4章 「飛べる人材」の育て方―正しく相手を信頼する
- 宇宙飛行士の教育環境
- 宇宙飛行士の仕事術
著者の山口孝夫氏は、JAXAで宇宙飛行士の選抜や訓練、技術支援を担当された方です。山口氏は宇宙工学者で心理学博士でもあるため、造詣が深いです。
本書には「採用とは、その人の人生を引き受けること。採用する側はその覚悟を持ってほしい」というメッセージが込められており、そのマインドセットや採用の考え方は一般企業においても大変参考になると思います。
個人的に一番驚いたのは、宇宙飛行士の面接試験での評価方法です。
結論から言いますと、JAXAの選抜試験では常に、定性的なものを定量化して評価する仕組みを模索しています。
(中略)
例えば面接官が自分と相性の合う人を面接してしまうと、何でもよく見えてしまって、客観的に正しい評価ができていないと言う時に「ハロー効果」が認められます。
(中略)
そうした状況を避けるため、面接試験については、面接官からの質問事項はもちろん、受験者からの回答内容についても「この答えが出たら加点する」という条件提示を前もって決めています
(中略)
面接では、点数制を導入することによって受験者の発言内容を定量化して評価し、面接官側のハロー効果を抑制します。そして、全員で協議することで、私たち評価する側での意見にも客観性を持たせています。こうして面接に公平性を保証しているのです。
凄いですね。てっきり面接官の投票などで審査していると思っていたのですが、ここまで真剣に客観性と公平性を持った審査基準・仕組みを構築しているとは予想だにしませんでした。
さすがに一般企業や学校でこのような試験をマネすることは難しいですが、宇宙飛行士の採用過程を知ることで、人材採用についての知見を与えてくれる良書だと思います。
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