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【本紹介】立花隆の「 精神と物質〜分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか」

立花隆さんの書籍を紹介するシリーズ。こちらはノーベル生理・医学賞受賞の利根川進氏との20時間に及ぶインタビュー取材をもとに書かれた分子生物学の本です。もう28年も前の本なので、当然その内容は最先端ではなくなっていますが、偉大な科学者である利根川進氏の生き様や考え方など、今でも読む価値は十分にあると思います。

圧倒的な取材力を持つ立花隆さんと、「100年に一度の大研究」を成し遂げた利根川進氏の対話は、当時大学生で科学者を志していた自分には大きな衝撃でした。正直に言うと、もしこの本を高校生の頃に読んでいたら、宇宙・天文ではなくて分子生物学の分野を志していたかもしれません。それぐらい利根川進氏の語る「研究」や「人生」は魅力的で、ワクワクするものでした。科学を志している中学生・高校生には、ぜひ読んでもらいたい一冊です。


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書籍紹介

目次は以下の通り。

  • 第1章 「安保反対」からノーベル賞へ
  • 第2章 留学生時代
  • 第3章 運命の分かれ目
  • 第4章 サイエンティストの頭脳とは
  • 第5章 科学に「二度目の発見」はない
  • 第6章 サイエンスは肉体労働である
  • 第7章 もうひとつの大発見
  • 第8章 「生命の神秘」はどこまで解けるか

本書は立花隆による利根川進への20時間にわたるインタビューの集大成である。利根川がノーベル生理学医学賞を単独で受賞したのは1987年。この分野では単独受賞だけでも珍しいが、選考委員のひとりが「100年に一度の大研究」というコメントを発したこともあり、受賞後、日本のジャーナリストが大挙して押しかけた。しかし、いずれも初歩的な質問に終始し、業を煮やした利根川は一度だけ本格的なインタビューに応じることにした。その相手が立花隆だったというわけだ。

  とにかくおもしろい。ノーベル賞の対象となった研究「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」の内容がわかるだけでなく、さまざまな実験方法や遺伝子組み換え技術などのディテールが書き込まれているおかげで、仮説と検証を積み重ねて一歩一歩真理に近づいてゆくサイエンスの醍醐味が手に取るように伝わってくる。利根川が定説を覆す仮説をひとり確信し、文字通り世紀の大発見に至るくだりには思わず興奮してしまった。利根川の研究歴をなぞる構成で、運命的な出会いや科学者の生き方といった人間的な側面も興味深い。

  ワトソン、クリックによるDNAの2重らせん構造の発見に始まった、分子レベルで生命現象を究めるという分子生物学の飛躍的な発展は、物質から生命、精神へと自然科学の方向転換をもたらした。ヒトゲノムの解読もそのひとつだ。いずれは生命現象のすべてが物質レベルで説明できるとの予測すらある。本書は利根川の偉業とともに、人類の知の歴史における一大事件である分子生物学草創期のあらましを書き留めた記念碑的名著である。(齋藤聡海)