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オードリー・タンの提案する「新しい民主主義」を考える

三連休で少し時間ができたので、録画しておいた落合陽一とオードリー・タンの対談番組を視聴しました。対談番組は、10月3日放送の『ズームバック×オチアイ 特別編』です。オードリー・タンさんは素晴らしいプログラマーで、現在は台湾のIT担当閣僚を務めているトランスジェンダーです。台湾中のマスクの在庫データを可視化できるアプリを開発してコロナ感染を抑えたことは有名ですね。

オードリー・タンさんと落合陽一さんの対談内容は、ファッション(ココ・シャネル)、経済(ケインズ)、政治(新しい民主主義)の3つでした。特に興味深かったのが「新しい民主主義」についてです。オードリー・タンの話を聞いて、これは「民主主義のデジタル化」なのだと感じました。簡単に考察してみましょう。


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クアドラティックボーティング

対談のテーマが政治になると、オードリー・タンさんは、台湾でも実際に行われた斬新な投票方法「クアドラティックボーティング」について説明してくれました。

最後に台湾で実践した斬新な投票方法についてのご紹介。民間からSDGsに関するアイデアを募集すると200あまりのアイデアが集まったそうです。「ペットボトル再利用で無料の水の提供」「障がい者に災害情報を届けるアプリ」「安全で環境に優しい不動産情報」などなど。そこで、どれを採用するか、政府で決めるのではなく、国民で投票で決めようとなった時に、採用した方法が「クアドラティックボーティング」という方法だそう。台湾の全人口の過半数が参加したそうです。。

クアドラティックボーディングはラディカルマーケットという本で提案された方法。特徴的なのは一人1票ではないという点だそうです。1票は1✕1の1ポイント。2票投じるには2✕2。1つの案や候補者に対して、2乗ずつしか投じられない仕組みで、100ポイントも所持していたとしたら、100人に1票ずつ投じることはできるけど、同じ候補者には10票しか投じられないという仕組み。

台湾の場合はさらに工夫を凝らして、全員に99ポイントくばり、票と交換してもらったそうです。10✕10じゃないことがポイントで、これだと1候補に全てを投じることできず、必ず分散投票することになる。自分の支持度に応じて投じることになり、自分で指示度を決めるため真剣に投票に参加できるようになる。とのこと。

【0461】落合陽一&オードリータン対談番組:まとめてみた」より引用

非常に面白い投票の仕組みですね。

一人1票ではなく、一人が複数人に分散投票を必ずしなければいけない、というのがクアドラティックボーティングの要点なのでしょう。

これだけ聞くと、「新しい民主主義といっても単に投票方法をマイナーチェンジした程度か」と感じるかもしれません。そうではないんですね。

対談でオードリー・タンさんは次のように言います。「この方法でスマホで簡単な方法で実施すれば、どの国でも24時間ごとに国民投票を行うこともできるでしょ」と。

つまり、新しい民主主義の本質は「デジタル化」なのです。

民主主義のデジタル化

落合陽一さんがオードリー・タンさんに問いかけます。

「日本は台湾でいう祝祭性が失われた状態。日本が祝祭性を回復するには?もしくは台湾が将来祝祭を失った場合、どう再着火すればいいか?」

オードリー・タンさんは次のように答えます。

「投票のレベルを変え投票の「回数」を増やす。投票の項目を細分化し、数秒でも時間があれば投票できるようにするのが鍵。民主主義の「回線速度」を上げることが大事。4年に1度の選挙で済ませるのは旧式のコンピュータを使い続けるようなもの。アクセスの回数を増やせば増やすほどフィードバックもアップデートも多くなる。それが「新しい民主主義」のあり方。」

このオードリー・タンさんの回答には、大変感銘を受けました。これはつまり、選挙をデジタル化することで限界費用(実施する時間とコスト)をゼロにして、「民主主義のあり方」を進化させようという試みです。

たしかに国民選挙の回線速度を高速にして実施回数を増やしていけば、政治の体質は今とは違うものに変質するでしょう。さらにクアドラティックボーティングを採用することで、民主主義の中で多様性・多元性を確保しようとしているんですね。

コロナ禍になってから、私も「民主主義のあり方」については考えを巡らせてきましたが、「民主主義をデジタル化する」という発想は思いつきませんでした。これはプラグラマ・エンジニア的な発想です。さすがオードリー・タンさんですね。

選挙デジタル化への懸念点

ただし、オードリー・タンさんの提案については懸念点もあります。

なぜなら、インターネットは大衆の感情増幅装置だからです。

選挙をデジタル化することで、民意と政治を強くリンクさせようという試みは、大衆が十分に賢ければ問題はないのでしょう。

しかし、ソーシャルメディアが普及して個人でも気軽に情報発信ができ、さらにはフェイクニュースも溢れている現代です。「大衆の心情」と「政治」を強くリンクさせれば、インターネットによって増幅された「大衆の心情」に「政治」が振り回されるかもしれません。

最悪の場合、ナチスドイツの時のような事態になりかねません。それを防止するような仕組みが選挙デジタル化には必要になるでしょう。

いきなり衆議院議員総選挙をデジタルでやるのではなく、まずは投票のレベルを低くした選挙を行うのが得策でしょう。オードリー・タンさんの話に出てきた「SDGsに関するアイデアの採用投票」などですね。

来年秋に新設されるデジタル庁では、このような「選挙のデジタル化」についても議論をして進めていってもらいたいですね。期待しています。


コメント

  1. […] 先日、オードリー・タンの提案する「新しい民主主義」についてブログで紹介しました。この「新しい民主主義」の概念の要は、選挙をデジタル化することで限界費用をゼロにするということでした。このように「限界費用をゼロにする」という考え方は、未来社会を予測するうえで大変重要な観点になります。 […]