今朝、デジタル教科書に関する興味深い記事を読みました。「デジタル教科書、教育現場も声を 文科省検討会議の堀田座長に聞く」です。
GIGAスクール構想により来年春には公立小学校・中学校で生徒1人1台にICTデバイスが揃うと言われています。もちろん、インターネット環境とデバイスを揃えることはゴールではなくスタートです。そこで今日は、デジタル教科書の可能性について考えてみたいと思います。
デジタル教科書の現状の課題
冒頭のデジタル教科書に関する記事はこちらです。会員限定記事ですが、デジタル教科書の課題が分かりやすく書かれています。
また、現行のデジタル教科書に関する教育法規は文部科学省のページで確認することができます。
教育法規に関しては、現状2つの大きな課題があると感じています。ひとつは、「学習者用デジタル教科書」=「紙の教科書の内容の全部をそのまま記録した電磁的記録である教材」と定義されてしまっていることです。
もうひとつは、デジタル教科書を使用する場合「各教科の授業時数の2分の1に満たない」との時間制限があることです。
3. 学校教育法第34条第2項に規定する教材の使用について定める件 (平成30年文部科学省告示第237号)
1.教育の充実を図るため、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用する際の基準:
① 紙の教科書と学習者用デジタル教科書を適切に組み合わせ、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用する授業は、各教科等の授業時数の2分の1に満たないこと。 ※学習者用デジタル教科書の導入は段階的に進めるため、まずは、紙の教科書を主として用いる
② 児童生徒がそれぞれ紙の教科書を使用できるようにしておくこと。
③ 児童生徒がそれぞれのコンピュータにおいて学習者用デジタル教科書を使用すること。
④ 採光・照明等に関し児童生徒の健康保護の観点から適切な配慮がなされていること。
⑤ コンピュータ等の故障により学習に支障が生じないよう適切な配慮がなされていること。
⑥ 学習者用デジタル教科書を使用した指導方法の効果を把握し、その改善に努めること。
「学習者用デジタル教科書の制度化に関する法令の概要」より引用
デジタル教科書の可能性
まずデジタル教科書の時間制限の課題については、文部科学省内でも課題を認識しており、規制緩和に向けての現行制度の見直しが行われています。
紙の教科書との折り合いについては、平井デジタル改革担当相も「原則デジタル化は時代の要請」と発言されているように、デジタル教科書が中心となるでしょう。
もちろん最初は紙との併用になりますが、遅かれ早かれ希望する人だけ「紙の教科書」を個別追加購入する、という時代になると思います。
大きな問題は、そういう時代になったときの「デジタル教科書のあり方」です。
現状、「デジタル教科書」=「紙の教科書の内容のそのままデジタル書籍化したもの」になってしまっています。これではデジタルのメリットがほとんど活かせません。
大事なポイントは、デジタル教科書が「デジタル教材化」することです。デジタル教材化とは、例えば動画や問題、AIドリルなどのインターネットを活用した学習に接続されることです。
ここまで出来てはじめて、本当の意味で「デジタル」教科書になります。
もちろん教科書なので教科書検定の問題があります。ですので、デジタル教材化したデジタル教科書においては「検定される範囲」と「それ以外(主にクラウド上のコンテンツ)」と分ける立て付けが必要だろうと想像しています。
ただし「検定される範囲」と「それ以外」に区分したとしても、学習者はその区切りを意識しないシームレスな作りになると良いですね。それが検定制度的に可能になるかは難しい気がしていますが、できたら公教育のあり方が変わる一手になりうると思います。
しかしながら現実的なデジタル教科書のあり方の予測としては、「紙の教科書の内容のそのままデジタル書籍化したもの」に落ち着くと思います。
それでは「デジタル教材化」した教科書の未来は無いかというと、これは私立学校を中心に展開されていくと考えています。というよりも、実は既に私立学校では普通に展開されているんです。
私立学校ではGoogleクラスルームやTeamsなどのプラットフォームを活用して、教員の手動ではありますが、優良なネットコンテンツや教材を生徒とシェアし、AIなどのデジタル特性をフルに活用されている先生方は少なくありません。
こうした背景からみると、デジタル教科書のあり方の議論はむしろ「知を限定する」という方向性に進みかねないと個人的には危惧しています。今後のデジタル教科書の議論に注目していきたいと思います。