精神科医のエリザベス・キューブラ・ロス博士は、たくさんの末期患者の看病を通して「死を宣告されてから受容に至るまでのプロセス」に気づきました。そのモデルが「死の受容5段階」です。その5段階は、【無視】→【怒り】→【取引】→【抑うつ】→【受容】となっています。(ただし、すべての患者が同様の経過をたどるわけではないそうです。詳しくはロス博士の「死ぬ瞬間」をお読みください。)
この「死の受容5段階」は、実は「死」以外にも応用が利く考え方です。「抗うことが許されず受け入れがたいもの」を受容しなくてはならないとき、その際の人の心理・行動を考察することができます。教育業界の事例を使って見ていきましょう。
アクティブ・ラーニングの受容
具体例として、アクティブ・ラーニング(以下、ALと表記)の受容について見ていきましょう。チョーク&トークの授業をしてきた教員や学校にとっては、ALはまさに「抗うことが許されず受け入れがたいもの」の代表例になります。
【無視】最初は無視(否認)のプロセスです。「ALは既にやっていることです!」「ALは今の実践の延長線上です!」といった発言が目立ちます。
【怒り】次は怒りのプロセスです。「ALなんて出来るわけがない!」「現場が混乱するぞ!」となります。どこかで聞いたことのあるセリフですね。
【取引】そして取引のプロセスに移ります。ALを受け入れる代わりに、別のものを要求します。例えば「本校では AL に積極的に取り組んでいます」 といった感じにマーケティングとして活用しようとします。また、 AL の手法が乱立し、 現場では「変わりたくない教師」の「なんちゃってAL」が散見されるでしょう。今の教育業界はこの段階にあると思います。
【抑うつ】抑うつのプロセスです。「取引」から「抑うつ」にプロセスが移動するきっかけが2020年大学入試改革だと思っていましたが、どうなるでしょうか。このプロセスになると、ALに反対していた教員・やったふりで済まそうとしてした教員が自分の殻に閉じこもり、退職までなんとか逃げ切ろうとします。
【受容】最後は受容です。ALを積極的に推進し、新たな教育を築こうとする人たちが教育業界を主導するようになると思います。
ざっくりと「死の受容5段階」になぞらえて見てきましたが、いかがでしょうか。教育業界全体で見ると「取引」の段階にあると書きましたが、当然学校やコミュニティ、教師によってどの段階にいるかは違ってきます。あなたの学校は、どの段階にいるでしょうか。
広域通信制の受容
最後にひとつ、ALと同様に「抗うことが許されず受け入れがたいもの」として、広域通信制の学校を見ていきましょう。子供たちや保護者には進学の選択肢が増えるため歓迎されますが、公立学校や私立学校にとっては生徒を取られるため受け入れがたい存在です。
教育業界では、広域通信制の学校をどの程度受容できているのでしょうか。私の観察では、現場の教員は「無視」の段階(存在を認知していない場合も含む)、そして学校経営陣は「怒り」の段階にあると思います。
ここで教育者、特に学校経営陣にとって大事なことは、「取引」や「抑うつ」や「受容」の段階を想像することです。例えば「不登校になってしまった生徒たちのために広域通信制用のフリースクールを校内に作ろう」「広域通信制学校に負けない個別最適化の教育を考えよう」などです。こういった思考の積み重ねによって、新しい時代の学校が出来上がっていきます。私もそのお手伝いをしていきたいと思っています。
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