Business Insider Japanの記事(「AIがもたらす時間節約効果のほぼ40%が、確認作業で失われている…最新の調査で明らかに」)によると、AIがもたらす価値の約40%が、手直しや目的とのズレへの対応で失われているそうです。AIから一貫して明確な成果を得られている利用者は、わずか14%にとどまっています。
記事では象徴的なエピソードが紹介されています。あるスタートアップ幹部が自分の原稿をAIに読み込ませたところ、「娘の学芸会に出席するために予定を空けた」という文章を勝手に付け加えられました。彼女に娘はいません。ハルシネーションの典型例ですね。
この調査結果から、3つのことを考えました。
60%は価値がある、という事実
「40%が失われている」と聞くとネガティブに感じますが、裏を返せば60%の価値は残っています。そして記事自体も指摘しているように、AIの技術進化に伴いハルシネーションは減少し、確認作業の負担は軽減されていくでしょう。
実際、1年前と今とでは生成AIの精度はまるで違います。重要なのは、現時点で不完全だからといってAI活用を止めることではなく、手直しコストを織り込んだうえで使いこなすことです。
私は校務活用の教員研修でもよくお伝えしているのですが、AIに最初から完成品を求めるのではなく、「叩き台を作ってもらう」という意識が大切です。叩き台であれば、手直しは当然の工程であり、むしろそこにこそ自分の専門性が発揮されます。40%の手直しコストも、完成品を期待するから「損失」に感じるのであって、叩き台として使えば「想定内の仕上げ作業」に変わります。
「最もAIの手直しが多い人ほど研修を受けていない」という逆説
調査で最も示唆的だったのは、AIによる手直し作業を最も多く強いられている従業員のうち、研修を受けているのは37%にとどまるという結果です。経営幹部の66%がスキル研修を最優先と言いながら、現場にはそれが届いていません。
これは学校現場でもまったく同じ構造があります。校務でAIを活用すれば業務効率化の恩恵が最も大きいのは、日々の事務作業に追われている先生方です。しかし、その先生方こそ研修に参加する時間的余裕がありません。「最も必要な人に最も届かない」というパラドックスは、企業でも学校でも共通しています。
だからこそ、個人の自助努力に任せるのではなく、学校組織として研修の機会をきちんと設けることが重要です。そして研修だけで終わるのではなく、先生方が日常的にAI活用のコツや失敗談を共有し合える土台づくりが欠かせません。
人間に残された最も重要な仕事は「責任をとる」こと
記事の最後に登場する一文が、すべてを要約しています。
「結局のところ、その成果物がAIによって生成されたかどうかにかかわらず、自分のアウトプットに対して責任を負うのは、自分自身なのだから」
AI時代において、人間にしかできない仕事とは何か。さまざまな議論がありますが、最もシンプルで本質的な答えのひとつがこれだと思います。AIは文章を書けます。コードも書けます。分析もできます。しかし、それを「自分の名前で出す」という判断と責任は、人間にしか引き受けられません。
これは子どもたちへのAI教育でも核心となるメッセージです。AIを使って探究を深めたり、創造的な活動に取り組んだり、問題解決をしたりする。そうした学びの中で生まれたアウトプットは、AIが手伝ったものであっても、自分自身のアウトプットです。だからこそ、そこには責任が伴う。その感覚を体感できる機会を、学校教育の中でも意識して作っていく必要があると考えています。
福原将之の科学カフェ 「福原将之の科学カフェ」では、学校の先生や小学生・中学生・高校生の保護者に向けて、教育に関する情報を発信しています。カフェで読書をするような気楽な気持ちでお楽しみください。