「マイナンバーカードに成績を紐づける案」のメリットと課題

マイナンバーカードに学校の成績や学習履歴を紐づける政策案が、教育業界で議論を巻き起こしています。私は基本的に賛成の立場ですが、注意しなければならないポイントや課題もたくさんあります。そこで今日は、「マイナンバーカードと成績を紐づける案」のメリットと課題について紹介したいと思います。


【スポンサードリンク】

成績紐づけの3つのメリット

「マイナンバーカードに成績を紐づける案」の代表的なメリットは3つあります。

一つ目のメリットは、教育に関してEBPM(Evidence-based Policy Making、証拠に基づく政策立案)が可能になる点です。

マイナンバーカードに成績が紐づくことで、継続的に個人の学習や成長の履歴をデータ化することができます。このビッグデータを(個人情報を抜いた状態で)他の様々な統計データと組み合わせることで、教育政策をデータに基づいて企画することが可能になります。現在の政策にありがちな「その場限りのエピソード」や「思い込み」から脱却することが期待できます。

二つ目のメリットは、個人の成績データの利便性の向上です。

今回の政策案の本質は「成績データの個人所有」です。つまり成績は学校や自治体や国が管理するものではなく、個人が所有して好きな時に好きなように子供・保護者が利用できるものだということです。

例えば大学時代の成績を引き出す際なども、今のように大学事務に依頼することなく成績証明書を発行できるようになるでしょう。学習履歴を好きな時に振り返れるため、入試や就活時のポートフォリオを作成する際にも便利になります。

三つ目のメリットは、ビッグデータとAIを活用した民間サービスの充実です。

個人情報を抜いた状態のビッグデータを民間に公開することで、AIを活用した様々なサービスが充実していくでしょう。全体のビックデータと「自分の成績データ」を合わせることで様々なことが可能になるため、子供たちはこうしたサービスの恩恵を得られるようになります。

上記のメリットに対して、教育の専門家でも反対派は多数います。彼らの懸念点の多くは「成績を学校・自治体・国に管理されることのリスク」です。当然、不当に成績を管理されないように目を光らせることが大事です。

繰り返しになりますが、マイナンバーカードに紐付けられることを通して「生徒の成績」が学校・自治体・国のものになるのではなく、「個人の所有物」になることが本質です。(ちなみに成績データとして引き出せない現状は、成績は個人の所有物ではないと考えられます。)

そして悪意を持った人が権力を持っていた場合にも、「成績データを不当な評価の根拠に使われてしまった」といったことが起こらないように制度設計には十分注意する必要があります。

成績紐づけの2つの課題

「マイナンバーカードに成績を紐づける案」には大きな課題が2つあります。

一つ目の課題は、「紐付けする成績の公平性」をどう担保するか、です。

マイナンバーカードに成績を紐づけられるようになれば、成績は大人になってからもずっと参照されます。大人になって小学生時代の通知表を見返すことがない現状とは違ってくるため、成績の公平性については必ず議論になるでしょう。

ぱっと思いつく解決案としては、全国一斉学力テストを何回も実施することですが、予算的にも労力的にも現実的ではありません。難しい課題です。

二つ目の課題は、「学校現場のデジタル化」がついていけるか、です。

制度・システムとして「マイナンバーカードに成績を紐づける案」が実現したとしても、現場の学校がデジタル化していなければ成績データを紐づけることはできません。最悪、紙のテストの結果を先生が1枚1枚データ入力するというブラック労働もありえます。学校現場のデジタル化が大きな課題です。

以上のように「マイナンバーカードに成績を紐づける案」には大きな課題があるため、2023年度の実現は私は難しいと思います。

上記のような課題は当然文部科学省も把握しているでしょうから、敢えてこの政策案を発表したのは、デジタル化を推進している菅政権に対してのアピールかもしれませんね。