Home » 保護者向けの記事 » 「子供の将来的な成績はAIで予測できるのか」を考える

「子供の将来的な成績はAIで予測できるのか」を考える

今朝、とても興味深い人工知能(AI)の記事を読みました。その記事では「AIなどを活用して子供の将来の成績を予測する研究」について紹介していました。4000組の家族に関する1万3000ものビッグデータを使って、子供たちの将来の成績を予測できるかを調べる研究です。面白そうですよね。教育におけるAI活用について考えさせられる良い記事でしたので、今日はそれについて考えてみたいと思います。


【スポンサードリンク】

オリジナル記事の紹介

「AIを使った社会現象の予測は限界がある」米大学が長期研究の結果を公開 からの引用です。概要はこちら。

米プリンストン大学の研究チームは、4000組の家族に関する、1万3000のデータポイントを持ったビッグデータを、コンピュータ科学者、統計学者、社会学者など数百人の専門家に提供。各家庭の子供の将来的な成績などを予測するアルゴリズムの開発を要請した。しかし、研究者らが提示した最先端の機械学習、もしくは統計分析方法などを取り入れたアルゴリズムによる予測結果は、すべて精度が落ち、いずれも研究基準に満たなかったという。

この研究プロセスがこちら。興味深いですね。

まず研究チームは、2000年に米大都市の病院で生まれた子どもと家族を無作為に選んだ。そして、子たちが1歳、3歳、5歳、9歳、15歳の時の状況を追跡。継続してデータを集めた。そこには、子どもたちの学校成績の平均、失敗した時に挑戦する根気の度合い、学校から報告された忍耐力、家族の経済的水準など多くの項目が含まれていた。

研究チームはデータの中から15歳の時のものを除き、アルゴリズムを構築するのに必要な十分なデータを研究者に提供した。そして研究者たちは9歳までのデータをもとに、子供たちの未来を予測するアルゴリズムの開発を進めた。最終的に最新技術を取り入れたさまざまなアルゴリズムが結果をはじき出したのだが、研究チームが実際のデータと比較したところ、どれひとつとして一定水準の正確さ担保することができなかったという。

考察

元論文はまだ読めていないのですが、それにしても興味深い内容ですね。今回の研究の結論は「子供の将来的な成績は、現在のAIでは予測ができない」ですが、これは将来的にどうなるのでしょうか。

私自身は、将来はAIによって予測が可能になるかもしれない、と思っています。最初に引用した記事にも書かれていますが、現時点で予測が不完全なのは「データが足りない」「AIのアルゴリズムが不完全」が原因かもしれません。これらが補われれば、将来は予測できるようになる可能性があります。

ただ、「AIによって子供の将来が予測されてしまうのは気持ち悪い」と思う保護者や先生は多いと思います。このような気持ち悪さを感じてしまう根本には、AIによる決定論に対する嫌悪感があるのだと思います。

決定論(けっていろん、英: determinism、羅: determinare)とは、あらゆる出来事は、その出来事に先行する出来事のみによって決定している、とする立場。 対立する世界観や仮説は「非決定論」と呼ばれる。

wikipediaより引用

でも実はここに誤解があって、「AIによる予測が可能」=「努力で何も変えられない」ではないのです。「AIによる予測」の正しいニュアンスは「模試結果から志望校の合格率が出される」程度だと考えれば良いでしょう。もちろんAIですので、短期間の予測の精度は高いです。努力によって三日後の受験の合否を覆すのは難しいでしょう。でも、三年後の受験の結果なら努力によって変えられるのです。

むしろAIによる予測結果は、「最適な努力をするための指針」になり得るとさえ思っています。AI予測のタイプによっては、どのような環境が最適なのか、どのような中間目標を目指せば良いのか、などのアドバイスをデータに基づいてAIがしてくれるでしょう。AIは「目標達成をするための最適なツール」なのです。

ただし、です。ここまでの議論の前提に立ち返ってみましょう。AIが予測するのは「子供の将来の成績」でした。これは「試験による学力の一軸評価」の価値観にAI予測は立っていることを意味します。つまり、工業化社会の価値観です。

工業化社会の学校の機能は「ある水準以上の能力(=学力)を持った学生を効率的に社会に送り出すこと」です。そのために学校では、全部の生徒に同じ内容を同じ時間、同じ場所で同じタイミングで同じように教えています(規格化・同時化)。そして、「AIによる子供の将来の成績予測」は、この工業化社会の学校の機能を強化する方向に加担するのです。

工業化社会の呪縛から脱するには、考え方を脱工業化社会にするしかありません。すなわち、個性化・統合化・非同時化・分散化・適正規模化・地方分権化です。学力についても多軸評価、個別最適化にベースを移すことがポイントです。学力観が多軸化された脱工業化社会においては、「一軸だけの学力予想」に価値はありません。そもそも評価方法も多様化してしまうので、AIによる予測自体が困難になるでしょう。

さて、「AIによる子供の将来の成績予測」はこれからどうなるでしょうか。我々の社会が脱工業化社会へ移行するのが先でしょうか、それともAIによる成績予測が実現するのが先でしょうか。そんなことをAIの記事を読みながら考えていました。