新型コロナウイルスの対策として、世界各国のICTを活用した対策が話題になっています。例えば台湾では、38歳の若きデジタル担当政務委員(大臣に相当)が「薬局のマスク在庫情報」を一般公開しました。これにより台湾では、「マスクが買える一番近い薬局」を教えてくれるアプリが開発され、大きな話題になりました。それに比べて日本はというと、行政のICT活用はイマイチだなぁと思っていました。しかし、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトの取り組みを知ってからは、少し感想が変わりました。「日本もまだまだ捨てたもんじゃないな」と。東京都の対策サイトの良いところを、一般の方向けにエンジニア目線で解説したいと思います。
東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイト
こちらが東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトになります。東京都内の新型コロナウィルスの感染者数だけでなく、患者の状況や年齢層・性別などの情報や都営地下鉄の利用者数の推移なども知ることができます。
この感染症対策サイトの素晴らしいところは、民間エンジニアを巻き込んで開発が行われている点です。エンジニアの専門用語で言うと、オープンソースで開発が進んでいるのです。
対策サイトの開発に民間のエンジニアが参戦
こちらが一般公開されている対策サイトのソースコード(プログラムが書かれているファイル群)になります。GitHubと呼ばれるエンジニア御用達のクラウドサービス上に公開されています。こちらを見ると、非常に多くの民間エンジニアが開発に貢献していることが分かります。(もちろん有志のボランティアです!)
具体的には、今日の時点で54人のエンジニアがサイト開発に貢献しており、315件のプログラムの更新(専門用語でpull request)が行われ、現在46件のプログラムの更新が検討されています。サイトの改善案(専門用語でissue)はこれまで200件も議論されており、現在は66件が議論の最中になっています。(ということまで、GitHubから知ることができます。)
正直に言って、これは世界に誇れる事例だと思います。Webフロントエンド開発を専門にしているエンジニアから54名もの方が立ち上がったのです。本間先生の言葉を借りると、この有志のエンジニアはグローバルボランタリーマインドを持った人達なのです。彼らのような人材によって、東京の都市機能の自己変容がこれから加速していくことでしょう。
東京都のデータ活用の未来
最後に触れておきたいのが、対策サイトが活用している大元のデータについてです。実は東京都オープンデータカタログサイトというWebサイトがあり、こちらで様々なデータが一般公開されているのです。東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトは、こちらの公開データが使われています。
この東京都オープンデータカタログサイトも素晴らしい取り組みではあるのですが、台湾などのICT先進国に比べると弱点もいくつかあります。その一つがAPI機能がない点です。
API機能がない場合、新型コロナウイルス感染症対策サイトの中のデータを更新する時には、エンジニアが手動でデータをサーバーにアップロードする必要があります。ところが、API機能があればデータの更新作業を全てプログラミングで自動化することが可能になるのです。
ちょっとした手間の違いのように感じるかもしれませんが、エンジニアからするとAPI機能があるのと無いのでは天と地ほどに違います。マスクの在庫を検索するアプリが台湾の民間から爆速で開発された背景には、このAPI機能の存在が大きかったと思います。
日本の行政のICT活用には、現状このような欠点がいくつか見られます。しかしながら、今回の新型コロナウイルス感染症対策サイトの取り組みをみて、私は明る兆しを感じています。第一に、グローバルボランタリーマインドを持った多くの人材が日本にも多く存在したこと。第二に、世界中の都市が「ICTを活用した都市機能の自己変容」に気付き始めたこと。これはとても大きなことだと思います。
現在のコロナウイルスの騒動が落ち着いたら、おそらく行政のICT活用は進化するでしょう。私はそう期待しています。日本の未来も、まだまだ捨てたもんじゃないなぁと思います。
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