SDGsのPBLで使える参考図書の紹介です。2019年にベストセラーになった本なのでご存知の方も多いのではないでしょうか。FACTFULNESS(ファクトフルネス)、サブタイトルは「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」です。
タイトルになっているFACTFULNESS(ファクトフルネス)は著者の造語で、「正しく事実に基づいて世界を見ること」という意味が込められています。正直に言うと、大学院で理数教育を受けていた身としては「そんなの当たり前じゃん」と思って敬遠していた本でした。でも違っていました。この本の価値は、まったく別のところにあったのです。
興味深いデータの数々
この本の一番の価値は、興味深いグローバルなデータをたくさん知ることができる点だと思います。この一冊の本に「これでもか!」と言うほどデータが詰め込まれており、パラパラと本をめくっているだけでも面白いです。何度読み返しても飽きないですね。(私がデータ大好きという理由もありますが、その分を差し引いても面白いと思います。)
例えば、上のデータは「女性ひとりあたりの子供の数」と「5歳まで生存する子供の割合」でプロットしたものです。左側が1965年のプロットで、右側が2017年のプロットです。二つの大きな丸は中国とインドを表しています。1965年にはプロットの途上国エリアにいた多くの国が、2017年には先進国エリア側に移動しつつあるのが分かります。
こういうデータを見ると、教師なら「SDGsが目指している2030年の世界では、どんなプロットになるか考えてみよう!」と展開したくなりますよね。SDGsを扱う際には、良い参考図書になると思います。
ちなみに、他にも下記のような興味深いデータが本では紹介されています。面白いですね。
事実とデータの隙間に注意
ただし、この本をご紹介するに当たって注意したいことがあります。この本の主張「正しく事実に基づいて世界を見ること」は、もちろん良いことです。注意すべきは、「必ずしもデータが事実を示しているわけではない」点です。データと事実の隙間には落とし穴があるのです。
改竄されたデータは論外だとしても、恣意的に抽出されたデータや歪められたグラフ表示、さらには偽相関(擬似相関)なども考えると、データと事実の隙間には落とし穴がたくさん存在します。データ自体は正しかったとしても、そこから導かれる主張が間違っているケースもあります。これらの落とし穴にはまると、データから「正しい事実」を得ることができなくなります。
「正しい事実」を得るためには、データを判断するスキルが重要になります。このスキルを持っていないと、自分では「データを基に世界を正しく見ている」と思っていても、実は「歪められた事実によって行動をコントロールされる」可能性があります。世の中のメディアをみていると、そのような意図のデータ活用がたくさん存在しているからです。
「データを基に世界を正しく見よう」とする意志だけでは、読書前よりもデータに欺かれやすくなる可能性があります。もしこの本を読んで「データが持つ力」に興味を持ちましたら、ぜひ「データを判断するスキル」も学んでみてくださいね。
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