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13年ぶり!日本人宇宙飛行士募集の7つの見どころ

2020年10月23日に文部科学省が「日本人宇宙飛行士を新たに募集を行う」と発表してから早1年、ついに先日「2021年度宇宙飛行士候補者募集要項」が公表されました。宇宙好きとしてはとてもワクワクしています。そこで今日は、13年ぶりとなる今回の日本人宇宙飛行士募集の見どころを、分かりやすく7つのポイントに絞って紹介します。新しい時代の宇宙飛行士募集について、多くの方に興味をもってもらえたら嬉しいです。


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宇宙飛行士候補者募集の7つのポイント

(画像はJAXA「宇宙飛行士候補者募集特設サイト」より引用)

目次

  1. 初の学歴・文理不問で大きく門戸を開いた募集
  2. 身長制限緩和で女性応募奨励
  3. ロールモデルは野口宇宙飛行士のような豊かな表現力・発信力
  4. 新しく導入されるプレゼンテーション試験
  5. STEM(科学・技術・工学・数学)分野の素養が要求
  6. 感染症対策として一部オンラインの実施を検討中
  7. 選抜プロセスの積極的公開と応援キャンペーンの展開
  8. 【補足1】宇宙飛行士の「働き方の多様性」は次回以降に見送り
  9. 【補足2】宇宙飛行士選抜試験関連の参考資料

① 初の学歴・文理不問で大きく門戸を開いた募集

1つめのポイントは、宇宙飛行士候補者に応募できる条件の大幅緩和です。13年前の前回の募集では、学歴として4年制大学(自然科学系)卒業以上、実務経験についても自然科学系分野で3年以上と厳しい要求がありました。それが今回の募集から学歴は完全に不問、実務経験についても3年以上を要求されるも、職種については不問になりました。多種多様なバックグラウンドを持った多くの方に、宇宙飛行士への門戸が開かれたと言って良いでしょう。

JAXA「応募要項のよくある質問について」より引用

ただし、学歴・文理不問になったからと言って「理系の知識ゼロで宇宙飛行士になれるわけではない」という点に注意が必要です。今までは募集段階で自然科学系のフィルタリングをしていたのを、今回の募集からは選抜試験内の自然科学系(STEM分野)のテストでフィルタリングを行うようになったと考えるのが良いでしょう。ISSでの実験など、宇宙飛行士の職能を考えれば自然科学系の素養が求められるのは当然でしょう。宇宙飛行士を目指している人は、しっかり自然科学系の勉強をしておきましょう。

② 身長制限緩和で女性応募奨励

2つめのポイントは、身長制限が大きく緩和され、女性応募が奨励されているという点です。前回の募集では「身長150cm以上で体重50kg以上」という制限がありましたが、今回の募集では「身長149.5cm以上で体重制限無し」と大きく緩和されました。(MAX側の190.5cm以下という身長制限は前回とほぼ同じ。ロシアのソユーズ宇宙船の搭乗条件に体重50-95kgという規定がありますが、今回の募集から体重制限は課せられなくなりました。)スペースXなど昨今の宇宙船の改良や新規開発のおかげで、宇宙船に乗るための身体条件が緩和されたことが大きいですね。身長制限で宇宙飛行士の夢を諦めていた知人もいたので、個人的にも嬉しいポイントです。

また、JAXAの情報発信をみていると分かるのですが、今回の募集では女性の宇宙飛行士応募を奨励しています。というのも、今回の募集の背景にある国際協力プロジェクト「アルテミス計画」では、女性初の月面着陸を目指しているからです。アメリカNASAでも女性宇宙飛行士の活躍を強く推進しているという国際情勢において、現役の日本人宇宙飛行士7人は全員男性。JAXAとしても向井千秋さん、山崎直子さんに続く3人目の女性宇宙飛行士を採用したいと考えているでしょう。

ただし、女性の方には残念ですが、日本人宇宙飛行士は募集人数が少ないため女性枠は特に設けないとのこと。

Q:女性の応募が推奨されているのでしょうか/女性枠はありますか。

A:ぜひ女性の方々にもふるってご応募いただきたいと考えております。ただ し、応募者は等しい基準に基づいて評価しますので、女性枠は設定していま せん。

JAXA「応募要項のよくある質問について」より引用

女性枠は設けられていませんが、その代わりに女性応募奨励のための広報関連施策をしっかり行うと言っています。後述するイベントでも、女性宇宙飛行士に関するキャンペーンがたくさんあります。宇宙飛行士を目指している女性の方は、ぜひチェックしてみてください。

③ ロールモデルは野口宇宙飛行士のような豊かな表現力・発信力

宇宙飛行士に求める人物像として、募集要項では次のように記載されています。

(1)  国際共同事業、多国籍なメンバーシップのチームの中において、日本の代表として、多様性を 尊重しつつ、ミッションを成功に導くための協調性と十分なリーダーシップを発揮できる。

(2)  来たる国際宇宙探査ミッションを見据え、様々な環境に対しても適応能力があり、宇宙という極 限環境での活動においても、柔軟な思考と着眼点を持ち、自らを律しつつ、適時的確な判断と 行動ができる。

(3)  ミッション参加により得た経験・体験・成果を世界中の人々と共有する表現力・発信力があり、 それらを活用し人類の持続的な発展や次世代のために貢献する。

2021年度宇宙飛行士候補者募集要項」より引用

前回募集時の宇宙飛行士像と比べて、今回から大きく取り上げられるようになったのが、3番目の表現力・発信力になります。JAXAからの情報発信を見ていても、ことあるごとにこの点は強調されています。

それもそのはず、今回の募集を通して宇宙飛行士になった人は、初の月面着陸をする日本人宇宙飛行士になるかもしれないわけです。しっかりと自分の言葉で「日本人の誰もまだ体験したことのない体験」を全国民に伝えていく表現力・発信力が求められるのは当然ですね。

ちなみに、私は直接確認できてはいないのですが、JAXAの記者会見にて「野口宇宙飛行士のような方を募集します」といった趣旨の発言があったそうです。野口宇宙飛行士の豊かな表現力・発信力を考えると、今回の募集のロールモデルに挙げられるのもよく分かります。野口宇宙飛行士の情報発信をご存知ない方は、ぜひTwitterやYouTubeをご覧ください。宇宙好きの方にも、そうでない方にもお勧めです。

④ 新しく導入されるプレゼンテーション試験

宇宙飛行士には「豊かな表現力・発信力」が求められると紹介しましたが、その審査方法として今回からプレゼンテーション試験が導入されることとなりました。募集要項によると、プレゼンテーション試験は第一次選抜、第二次選抜、そして第三次選抜の計3回も行われる予定となっています。

「え、プレゼンテーションで試験をするの!?」と驚かれる方がいるかもしれませんが、教育関係者にとっては実はそれほど驚くようなことではありません。というのも、私立中学校の入学審査としてプレゼンテーション試験を導入されている学校がここ数年で増えてきたからです。従来のような「ペーパー試験での学力審査」だけでなく、「豊かな表現力・発信力」や「思考力」などを評価する入試(新タイプ入試と呼ばれています)を導入する学校が劇的に増えてきているのです。「豊かな表現力・発信力」を重視する宇宙飛行士の選抜試験でプレゼンテーション試験が導入されることは当然の帰結と言えるでしょう。

話は宇宙飛行士の選抜試験に戻しまして、気になるプレゼンテーション試験の内容ですが、試験についてJAXAからは次のような回答が出されています。

何らかの発表を行っていただくことになりま すが、試験内容に関係するため、具体的な内容については申し上げ られません。

JAXA「応募要項のよくある質問について」より引用

どのような試験内容になるのかとても気になりますが、残念ながら試験直前まで詳細は明らかにされそうにありませんね。選抜試験を受けられる方は、どのような課題が来てもちゃんと対応できるように、プレゼンテーション能力を日々鍛えておく必要がありあそうです。

⑤ STEM(科学・技術・工学・数学)分野の素養が要求

5つ目のポイントは、宇宙飛行士に求められる素養についてです。前回の募集では「自然科学系」という表記だったものが、今回の募集から「STEM(ステム)分野」と表記が変更されました。

STEMとは教育業界の専門用語で、Science( 科 学 ) 、 Technology(技術)、Engineering (工 学)、Mathematics(数学)の頭文字をとってSTEMと呼びます。2000年代にアメリカで始まった教育モデルで、科学技術開発の競争力向上の観点から多くの国で取り入れるようになりました。もちろん日本でも私立学校を中心に行われており、教育関係者にとってSTEMは耳馴染みのある言葉です。STEM教育という言葉には、科学・技術・工学・数学を個別に行うのではなく、科学・技術・工学・数学を横断的に活用して取り組むというニュアンスがあります。

JAXAがSTEM分野という表現を使った意図としては、(1)理系イメージが強い「自然科学系」という言葉を避けたかったから、(2)STEMという言葉のニュアンスが宇宙飛行士に求められる素養に合致していたから、の2つが考えられます。JAXAの真意は分かりませんが、宇宙飛行士の職能を考えると、私としては(2)ではないかと思っています。

余談ですが、今の教育業界ではSTEM教育ではなく、「Arts(芸術・デザイン・リベラルアーツ)」の素養を加えた「STEAM(スティーム)教育」に注目が集められています。というのも現実社会の問題解決には、STEMの素養だけでは不十分で、多くの場面でArtsが必要になると考えられているからです。多くの私立学校では、既にSTEAM教育を取り入れたカリキュラムを採用しています。

10年後の宇宙飛行士選抜試験では、STEMからSTEAMに変わっているかもしれませんね。

⑥ 感染症対策として一部オンラインの実施を検討中

6つ目のポイントは、オンライン試験・オンライン面談の実施です。「よくある質問」には次のような記載があります。

Q:募集/選抜における新型コロナウィルス感染症対策はどのようになっている でしょうか。

A:人数が多い第 1 次選抜の段階までは各地域等での分散またはオンラインの 実施を検討中です。それ以降についても、可能な限り密となる状況を避ける など、感染症予防対策を徹底して実施いたします。

JAXA「応募要項のよくある質問について」より引用

募集要項にも第0次選抜と第一次選抜のところに「オンライン実施を検討中」と記載があることから、筆記試験や面談試験をオンラインで実施する可能性があるということです。

教育業界ではオンライン入試は敬遠されがちですが、中学入試では少しずつオンラインの導入が進みつつあります。気軽に学校に来れない帰国生の入試や、対話が基本の面談やプレゼンテーション入試を中心に、これからさらに導入が進むでしょう。

宇宙飛行士選抜試験を受ける予定の方は、家庭のインターネット環境を見直しておくと良いでしょう。教育関係者として、私もJAXAがどうのような試験をどのように行うのか注目していきたいと思います。

⑦ 選抜プロセスの積極的公開と応援キャンペーンの展開

宇宙飛行士選抜試験については、今でこそ関連書籍が何冊か出版されてはいますが、13年前の選抜中は情報がほとんどなく、受験生は暗中模索で選抜試験に臨んだそうです。宇宙飛行士という仕事の重要性を考えると仕方のない面もありますが、密室で募集・選抜の全てが決められたのでは、国民の理解や共感を得ることは難しいでしょう。

そこでJAXAは今回の選抜から、応募者等の個人情報等に十分配慮しつつ、公開可能な選抜プロセスは積極的に公開する方針を打ち出しました。それと同時に、宇宙飛行士選抜試験について国民の理解と共感を広く得るために、これまでにない新しい広報・アウトリーチ活動に挑戦することとなりました。JAXA 宇宙飛行士候補者募集の特設サイト 「Hello! EXPLORES PROJECT」もその挑戦のひとつです。とてもカッコよくてワクワクするホームページになっていますので、ぜひご覧ください。

特設サイトを見ていただくと分かるのですが、今回の募集では国民を巻き込むための様々なイベントやキャンペーンが用意されています。直近ですと、明日12月1日(水)の18時からJAXAオンラインスペシャルイベント vol.1 「宇宙飛行士候補者 採用説明会 〜宇宙飛行士に、転職だ。〜」がYouTubeでライブ配信されます。宇宙飛行士選抜試験を受験される方は必見ですね。

2022年1月中旬頃には、宇宙飛行士候補者募集に関するスペシャルイベントが開催される予定です。こうした動きに連動して民間でも宇宙関連のイベントが開催される見込みです。12月10日〜26日に開催される「HELLO SPACE WORK!NIHONBASHI」では、「宇宙の仕事」にまつわるトークセッションを中心としたフェスが開催されます。宇宙飛行士募集に関するトークセッションも開催されるので、興味のある方は要チェックです。

こうした宇宙関連のイベントを通して、多くの人に宇宙飛行士や宇宙開発に興味を持ってもらえたら嬉しいです。私のブログ「科学カフェ」でも宇宙飛行士関連の情報を発信していきますので、興味のある方はTwitterやFacebookのフォローをよろしくお願いします。

【補足1】宇宙飛行士の「働き方の多様性」は次回以降に見送り

2021年3月5日のYouTubeライブイベント「宇宙探査時代の新たな宇宙飛行士選抜への挑戦~これからの時代に求められる飛行士の資質と、選抜・基礎訓練の新たな可能性~」では、宇宙飛行士の働き方の多様性として、副業宇宙飛行士などの話が話題にあがりました。非常に興味深い点でしたが、残念ながら今回は導入を見送るとJAXA側から発表がありました。

(3)働き方の多様性

訓練期間や訓練スケジュール等の養成計画との関係、所属元組織との関係等、様々な点を検討した結果、導入することが難しいとの結論に至り、活用を見合わせた。

具体的には、訓練の従事割合がほぼ100%となり、国内外含め他の宇宙飛行士と同じ計画で訓練することも多く、海外で訓練を行うこともあり、所属元と掛け持ちで業務をこなすということは難しいと判断した。次回の募集に向けて検討は継続する。

【補足資料】2021年度宇宙飛行士候補者の募集について より引用

次回の募集以降も検討は継続するとのことですので、宇宙飛行士の裾野を広げるためにも、今後に期待したいと思います。

【補足2】宇宙飛行士選抜試験関連の参考資料

今回の記事を書くにあたり参考にした資料を紹介します。一次情報は大切ですので、特に宇宙飛行士選抜試験を受けられる方はリンク先の資料をご確認ください。


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